研究課題/領域番号 |
19KK0129
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
許 岩 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90593898)
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研究分担者 |
仲村 英也 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00584426)
萩原 将也 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 理研白眉研究チームリーダー (00705056)
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研究期間 (年度) |
2019-10-07 – 2023-03-31
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キーワード | ナノ流体デバイス / アプタマー / 生体分子捕捉 / 1分子 / 分子動力学シミュレーション / 細胞膜透過性 / 光ピンセット / ナノ粒子 |
研究実績の概要 |
令和3(2021)年度は、新型コロナウイルスのパンデミックのため海外共同研究先に出向いて共同研究を行うことのできない状況に応じて調整した研究計画に従って、下記のとおりに研究を実施した。 まず、米国ペンシルベニア州立大のWang教授の助言と指導のもと、研究代表者の研究室で、昨年度に探索し始めたアプタマーを用いたナノ流路内における生体分子捕捉法の開発に引き続き取り組んだ。構築したアプタマーナノバイオ界面を有するナノ流路内において、蛍光色素で標識した標的タンパク質を捕捉してアレイ化することに成功した。また、蛍光解析により、捕捉、アレイ化された標的タンパク質分子が1分子の可能性が高いことが示唆された。次に、生体分子情報収集の高効率化の実現に向けて、ナノ粒子の操作の自由度を向上することを目的とし、ホログラフィック光ピンセットに着目した。これまで光ピンセットの研究経験に基づいて、ナノ流体デバイスにおけるホログラフィック光ピンセットによる複数粒子の光操作の原理の解明に取り組んだ。ナノ流体の流れ速度が粒子の光操作の性能を大きく影響することが明らかになった。 理論計算について、分子動力学シミュレーションを用いて、ナノ粒子の粒子径と修飾分子鎖長が粒子の膜透過性に及ぼす影響を解析した。コアとなる金ナノ粒子のサイズおよび修飾分子(アルカンチオール)の炭素鎖長が異なる9種類の粒子を対象とした。その結果、コアとなる金ナノ粒子のサイズが小さい粒子は炭素鎖が長いほど膜透過性が低下する一方、コアサイズが大きい粒子の場合、膜透過性は炭素長の影響を受けないことがわかった。 細胞操作について、細胞とその周囲ECMの空間パターンを制御することにより、細胞行動に対する細胞-ECM間の相互作用の影響を実験・理論の両方から解析を行った。これにより、細胞の行動を恣意的な方向へと制御する仕組みが見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3(2021)年度は、新型コロナウイルスのパンデミックの先行き見通しが不透明の中、様々な困難を事前に想定し、本研究申請の際に提案した研究推進方針を調整して年度計画を立てた。実際状況に応じて工夫をしながら、海外の共同研究先の先生の助言と指導を積極的に得ることにより、当初計画した研究項目をおおむね推進できた。具体的には、海外の実験環境を利用できないことから海外の共同研究先の独自の電気穿孔法の実験環境を研究代表者の研究室で構築しようとすることを目指して、中国北京航空航天大のChang教授の助言と指導を得ながらたくさんの検討を行ったが、海外出張ができなくて、経験、設備、経費などの制限もあるため、残念ながら実現できなったものの、生体分子捕捉法の開発、生体分子情報収集の高効率化のためのナノ粒子操作の自由度向上の取り組み、分子動力学シミュレーションなどの主な研究項目を実施し、当初に立てた年度計画の目的の大部分を達成した。以上から、令和3(2021)年度はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
令和4(2022)年度は、これまでの新型コロナウイルスのパンデミックの状況を鑑みて、パンデミックが本年度中も続くことを想定したうえ、昨年度に実施した研究内容を踏まえ、提案当初想定していた研究目標を調整して下記のとおりに研究計画を実施する。研究の進み方について、これまで通り、Zoomなどのミーティングツールを活用し、海外共同研究先と活発なオンラインディスカッションや打合せを行うことを通じて、助言と指導をいただきながら、現在の研究室の研究環境を最大限に活用して共同研究を推進する。具体的には、生体分子の収集における課題を解決するために、中国北京航空航天大のChang教授と米国ペンシルベニア州立大のWang教授の実験経験に基づいた助言を得ながら、より実際の細胞膜に近い複数成分で構成されるリン脂質膜に着目して、分子動力学シミュレーションを行う。膜の構成成分が電場印加時にどのようにナノ粒子の膜透過性を影響するのかを明らかにする。そして、分子情報の2次元展開に向けて、ナノ粒子がナノ流体デバイスに捕捉する過程を高感度イメージングで明らかにする。同時に、令和3(2021)に引き続き、ナノ流体デバイスにおけるホログラフィック光ピンセットによる複数粒子の光操作において、ナノ流体環境がどのようにナノ粒子の光ピンセット操作を影響するのかを定量的に明らかにして、ナノ流体デバイスにおけるナノ粒子の操作の自由度の向上を目指す。尚、これまで通り、新型コロナウイルスのパンデミックの動向を常に注視し、状況に応じて研究内容を柔軟に調整しながら上記の研究計画を実現していく。また、一旦新型コロナウイルスのパンデミックが収束し海外で研究活動を再開できるようになる見込みが立ち次第、日程と身の安全を確保した上で、事前に万全な実験準備を揃えて、海外の共同研究先の研究室に出向いて共同研究を積極的に実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた論文投稿に関わる費用は、論文作成の遅れに伴い、残りました。4万円程度の残金は次年度論文投稿の際に使用する予定です。
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