研究課題/領域番号 |
19KK0136
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
猪瀬 朋子 京都大学, 高等研究院, 特定助教 (10772296)
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研究分担者 |
小関 良卓 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (80780634)
田中 啓文 九州工業大学, 大学院生命体工学研究科, 教授 (90373191)
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研究期間 (年度) |
2019-10-07 – 2024-03-31
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キーワード | グラフェンナノリボン / 探針増強ラマン散乱 / 分子表面修飾 |
研究実績の概要 |
本年度は、化学的アンジップによりダブルウォールカーボンナノチューブ(DWNT)から得られたグラフェンナノリボン(GNR)の探針増強ラマン散乱(TERS)測定で得られたスペクトル情報の詳しい解析を、GNR一本レベルで行った。化学的アンジップの反応機構についても考察するため、アンジップ過程で生じるGNRの中間状態であるy型GNR(yGNR)が多く存在する、DWNTに1時間の超音波処理を行った段階で得られるGNRのTERS測定を行った。yGNRのTERS測定結果から、DWNTの外側由来のGNRと内側由来のGNRに、系統的な結晶性の差異が認められた。すなわち、取得されたTERSスペクトルのうち、内側由来のGNRでは欠陥に由来するD-band強度が弱く、ほぼ欠陥がない状態なのに対し、外側由来のGNRでは顕著にD-bandが観察され、GNR全面に欠陥があることが明らかになった。更に詳しくGNRの電子状態を理解するため、広域のTERS-AFM画像で観察された複数本のGNRから得られたTERSスペクトルの解析を行った。その結果、観察されるG-bandやG/D比は、それぞれのGNRでばらつきがあることが明らかになった。GNRによっては、G-bandの分裂やG-bandの波数シフトが観察されたことから、得られたGNRには、欠陥のばらつきに加えて、エッジ構造にもzigzag、chiral、armchair等、多様性が存在することが示唆された。これまでの報告から、アンジップの際にDWNTの分散剤として用いるPmPVから生じるラジカル種が、アンジップを促進することが示唆されてきたが、今回のTERS測定の結果から、アンジップ過程全体を通してラジカルの攻撃を受ける外側DWNT由来のGNRでは多くの欠陥が生じる一方、内側DWNTに由来するGNRでは、欠陥の少ないGNRが得られることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、コロナウイルスの感染状況拡大のため、分担者の所属機関およびルーバン大学へ訪問し、実験を実施することが困難であったが、ルーバン大学のSteven De Feyter教授、分担者の九工大・田中、東北大・小関と定期的なオンラインミーティングを行うことで、各分担者の進捗状況の共有を行い、研究を推進している。 本研究では、分担者・田中が作製するGNRのエッジに選択的な分子修飾を実現することで、電子状態のより精密な制御が可能になると予想される。そのため、GNRエッジの官能基に関する情報を得ることが重要である。エッジの主な官能基として、カルボキシル基あるいはヒドロキシル基であることが予想されるため、分担者・小関は、ヒドロキシル基と特異的に反応する分子をGNRと反応させることを試みている。今後、分子と反応させたGNRのTERS測定を行うことで、特にエッジ部分のTERSスペクトルに着目し、分子に由来するスペクトルの検出が可能かどうか、確認する。 分子修飾による電子状態の制御とともに、新たに光による電子状態制御も現在試みている。GNRでの実験の前段階として、グラフェンシートを用いて、水中で光を照射したところ、光照射した部分のみでD-band強度が増加することを、これまでに確認している。今後、より効率的な光による反応が起こる条件を、まずはグラフェンシートを用いて検討する。 GNR上への分子修飾と並行して、安定したTERS測定を行うためのTERS用ナノワイヤープローブの改良も行っている。これまでに、銀ナノワイヤー表面上を薄い金薄膜で被覆した金被覆銀ナノワイヤーを測定に用いることで、ナノワイヤープローブの安定性が向上することを明らかにしている。 以上のように、GNRの電子状態制御に向けた検討を進めていることから、研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
上記業績概要で述べたとおり、TERS測定結果から、化学的アンジップで得られるGNRのエッジ構造には多様性があることが示唆されている。グラフェンナノリボンのデバイス化には、エッジ構造が大きく影響するため、今後はTERS測定を行った試料と同じ条件で作製したGNRのTEM測定を行うことで、エッジ構造の観察を試みる。観察されるエッジ構造とTERS測定で得られている結果の相関を明らかにすることで、化学的アンジップで得られるエッジ構造の多様性について、より具体的に明らかにする。また、これまでGNRのTERS測定は、1時間の超音波処理でアンジップしたものを観察してきたが、これまでの研究からyGNRの量が減ることが明らかになっている4時間超音波処理したもので同様のTERS測定を行うことで、観察されるGNRに見られる欠陥量の変化や、1時間の超音波処理で観察された欠陥量およびエッジ構造の多様性に変化が見られるのか、考察する。さらに、化学的アンジップの際に用いる分散剤として、PmPV以外のものを用いた場合に、欠陥量等に違いが見られるのかについても、TERS測定で明らかにする。 また、本年度はルーバン大学・Steven De Feyterグループを訪問し、GNRへの化学的分子修飾を試みる予定である。この際、修飾する分子の濃度を変化させることにより、分子修飾位置の制御(エッジのみへの分子修飾)や、修飾する分子密度の制御が可能かどうかについても、検証する。分子修飾後のGNRは、走査型トンネル顕微鏡(STM)およびTERS測定を用いて評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、コロナウイルス感染拡大のため、予定していたルーバン大学を訪問しての実験が不可能であった。また、参加を予定していた国際学会が1年延期となった。そのため、これらの予定を延期し、2022年度にルーバン大学への訪問および、国際学会へ参加する予定である。
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