研究課題/領域番号 |
19KK0145
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
深瀬 浩一 大阪大学, 理学研究科, 教授 (80192722)
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研究分担者 |
真鍋 良幸 大阪大学, 理学研究科, 助教 (00632093)
角永 悠一郎 大阪大学, 放射線科学基盤機構, 特任助教(常勤) (30836903)
下山 敦史 大阪大学, 理学研究科, 助教 (90625055)
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研究期間 (年度) |
2019-10-07 – 2024-03-31
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キーワード | 糖鎖 / 免疫 / 合成 / ワクチン / レクチン |
研究実績の概要 |
申請者は、リポ多糖やペプチドグリカンなどの細菌由来複合糖質やN-グリカンなどの糖タンパク質糖鎖について、化学合成と自然免疫系における機能研究を世界的な共同研究として展開してきた。一方、Molinaro教授は、主にNMRを用いた細菌由来多糖の構造解析研究や構造生物学研究においては世界的な権威である。本研究では、これらを統合して、細胞内共生菌Alcaligenes faecalis由来リポ多糖の構造解析と合成研究を実施し、さらには自然免疫受容体TLR4/MD-2との相互作用解析研究を行う。一方、宿主由来の糖鎖が免疫系を調節することが明らかになりつつある。そこで合成したN-グリカンを用い、自然免疫受容体Dectin-1や免疫抑制性受容体シグレックとの相互作用解析を実施する。本研究は、両グループが共同することで初めて可能となるもので、糖鎖の機能研究を大きく飛躍させ、糖鎖や複合糖質を利用した新たな免疫制御法開発の基盤を築くものである。 共生菌は宿主と相利共生関係にあり、宿主にとっても好ましい形で免疫系を調節すると考え、細胞内共生菌Alcaligenes属由来のLPSが毒性を示さない一方で、免疫系を効率的に活性化して抗体産生を増強するなど、ワクチンアジュバントとして極めて有望であることを見出した。本研究では腸のパイエル板の樹状細胞内に共生するAlcaligenes faecalisを対象に、LPSとリピドAの構造解析、合成と生物機能研究を実施している。 一方、我々は、Dectin-1がIgG上のコアフコースを認識していることを見出した。Dectin-1がコアフコース含有N-グリカンを認識することを見出したのは極めてインパクトの大きい結果である。 これらの成果はMolinaro教授との密な共同研究の成果として得られたものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
我々は、共生菌は宿主と相利共生関係にあり、宿主にとっても好ましい形で免疫系を調節すると考え、医薬健栄研の國澤教授と協力して、ワクチンアジュバントとして極めて有望であることを見出した.本研究では腸のパイエル板の樹状細胞内に共生するAlcaligenes faecalisを対象に、LPSとリピドAの構造解析、合成と生物機能研究を実施するが、すでにその構造解析は終えており合成も完了した。現在その生物活性を測定しているが、毒性がなく、アジュバントとしての理想的な活性を持つことを示しつつある。これまで細胞内共生菌由来のLPSの構造や機能研究は取り組まれたことはない。 一方、申請者は糖鎖機能探索の新手法として、糖タンパク質やN-グリカンのデンドリマーのPET(陽電子断層撮影)や蛍光イメージングを実施し、生体内での糖鎖複合体の局在部位や代謝過程を解明し、さらにコアフコースがIgG抗体の脾臓などの免疫系臓器への集積性を制御することを見出した。本共同研究グループは、脾臓の樹状細胞に高発現しているDectin-1がコアフコースと相互作用し、動態を制御すると仮定した。Dectin-1は糖鎖部のみのN-グリカンには結合しないと報告されていたことから、Dectin-1は糖鎖部とペプチド部を両方認識するものと考え、SPR解析を行ったところ、Dectin-1は、コアフコース含有IgGにnMレベルというレクチンとしては極めて強いアフィニティーで結合したのに対して、コアフコースを持たないIgGには全く結合しないという驚くべき結果を得た。Dectin-1がコアフコース含有N-グリカンを認識することを見出したのは我々のみで唯一無二である。加えて、N-グリカンとシグレックの相互作用解析にも成功した。 このように、Molinaro 教授と共同研究を進めることで、着実に研究成果に結びついている。
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今後の研究の推進方策 |
申請者は、リポ多糖やペプチドグリカンなどの細菌由来複合糖質や本研究主題であるN-グリカンについて、最先端の合成研究を展開し、合成化合物を用いて自然免疫受容体によって認識される最小リガンド構造を化学的に同定し、構造活性相関を明らかにしてきた。さらに生物学者、医学者を中心に世界中の研究者と共同研究を実施するとともに、多数の研究者に合成化合物を提供することにより、糖鎖の関与する自然免疫機構の解明に大きく貢献してきた。一方、イタリア側研究者のMolinaro教授は、主にNMRを用いた細菌由来多糖の構造解析研究や構造生物学研究においては世界的な権威である。 本研究では単一のグループでは達成が困難な、合成、構造解析、NMRによる構造生物学研究を総合したプロジェクトを企画した。糖鎖科学と自然免疫を合わせた分野で、このような総合的研究を実施するには、我々とMolinaro教授との共同研究をおいて他にない。両者が協力することで、世界で最先端の成果が得られるものと期待している。 申請者は、東大の清野教授、医薬健栄研の國澤教授、Molinaro教授と共同で、ワクチンアジュバントとして優れた作用を有する細胞内共生菌であるAlcaligenes属由来LPSの構造研究を開始した。すでに糖鎖部の短いLOSの構造決定を終え、LPSの構造解析を進める。さらに、リピドAの合成も終了しており、今後、機能解析を進めていく。 Dectin-1やシグレックに関する共同研究も準備状況は整い着実に成果につながってきている。今後は、N-グリカン、N-グリカンの結合した糖ペプチドや糖タンパク質の合成と活性評価を行う。合成した化合物群とDectin-1やシグレックのSTD-NMRを用いた相互作用解析研究を進める中で、予備的ではあるが良好なSTDシグナルを得ている。この方針で研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定通り、積極的に国際共同研究を推進している。しかし、年度末にコロナウイルスの影響で、参加予定であった国際シンポジウムなどがキャンセルになり、また、共同研究を目的としたお互いの研究機関の訪問も想定通り行うことができなかった。そこで、本年度はそれぞれの研究機関での準備に力を割くこととしたため、想定よりも旅費を使う必要がなくなった。お互い、十分な準備をしてきており、今年度以降、積極的にお互いの研究機関を訪問しながら共同研究を密に進めることで非常に高い成果が得れらるものと期待している。加えて、今年度以降に関連分野の国際学会が多く開催されることが明らかになり,それらの学会での成果発表やディスカッションにも費用を割くことで、効率的な予算運用になると考え、繰り越しを行った。
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