研究課題/領域番号 |
19KK0146
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
新家 一男 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究グループ長 (20251481)
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研究分担者 |
末永 光 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (90357252)
工藤 慧 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究員 (80828161)
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研究期間 (年度) |
2019-10-07 – 2023-03-31
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キーワード | 天然化合物 / 海洋生物 / 難培養性微生物 / 生合成遺伝子 / 異種発現生産 / メタゲノミクス |
研究実績の概要 |
タイ国の海洋生物から見いだされた、医薬品として上市されている ecteinascidin 743 (ET-743) は、群体ホヤに共生する難培養の微生物によって生産されていることが明らかにされてきた。本化合物は現在、天然化合物由来の前駆体から半合成により供給されているが、反応ステップが多く収率が悪いのが問題となっている。本研究においては、タイ国研究者と協力して、ET-743 の生合成遺伝子クラスターの正確な同定と、培養可能な宿主微生物を用いた異種発現による臨床薬の安定供給の可能性を検証する。さらに近年、ET-743 以外にも renieramycin 等の陸生微生物二次代謝産物には見られないような、特徴的な構造を持つ化合物が、海洋生物より多数見出されている。そのような、タイ国に棲息する海洋生物や植物などの共生細菌に由来する有用化合物の生合成遺伝子クラスターの解明についても、広く共同で進める。 本年度は、標的とする群体ホヤ試料からの、共生微生物由来メタゲノムDNAの精製法の確立を目指した。我々は、これまでの日本国内の海洋生物を対象とした研究において、海綿などの海洋生物試料からの微生物分離においては、採取直後より劣化が始まり、採取後一定時間経過した試料からは、共生微生物やゲノム DNA の分離や回収が不可能であるか、効率が著しく悪化することを明らかにしている。したがって、タイ国海域で採取した海洋試料を、日本国内に輸送したのちにゲノム DNA 抽出処理を行う従来のやり方では、良質なゲノム試料を得ることが出来ないことが予想された。このため、群体ホヤを採集後直ちに処理を行い、時間を置かずに DNA 抽出を行うことによって、研究室に持ち帰るまでゲノムを安定保存できる数種類の手法を開発した。この結果、過去に例がないほどの良質なメタゲノム DNA 分子を得ることが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海洋生物に共生する微生物からのメタゲノムDNAの取得に成功したのちに、さらにサンプリングとゲノムDNA精製を幾度か繰り返し、実験系の最適化とメタゲノムDNAの大量精製を行うことを計画していたが、新型コロナウィルス感染症に伴う渡航規制の解除後に実施することを計画している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、海洋試料から取得したゲノム DNA を日本に移送し、次世代シーケンサーを用いたメタゲノム解析を行う計画である。高分子 DNA の保存が確認された場合には、ロングリードシーケンサーによるシーケンシングについても試みる。また、調製済みのゲノムライブラリー作製用のゲルブロックも日本に移送し、目的に沿った大きさのゲノム断片からなる BAC ライブラリーの作製を行う。ゲノム DNA およびゲルブロックのクオリティチェックの結果次第では、再度タイ国での海洋生物試料の採取および現地での処理が必要となる。 また、標的化合物である ET-743 の異種発現生産を目的として、ET-743 と同じくテトラヒドロイソキノリンを部分骨格にもつ safracin の生合成遺伝子を鋳型としてET-743生合成に不足している遺伝子群を補充することにより、ET-743 の人工全生合成クラスターの構築を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症による渡航規制のため、現地でのサンプリング実験は次年度以降に実施する。
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