研究実績の概要 |
ペリ環状反応は有機合成化学において広く利用されてきたにもかかわらず, 生化学 (酵素化学) の分野おいては, その反応が一次代謝経路中に長らく見出されずにいたことから非常に希少な存在であった。酵素触媒による有機化学変換反応は, 主にイオン反応とラジカル反応に大別されるが, Diels-Alder反応 (以下DA反応とする) はそのどちらにも属さず, 電子環状遷移状態を経るペリ環状反応機構によって二つの炭素-炭素共有結合形成反応を一挙に進行させる。有機合成の中で環化分子の構築や炭素骨格の構造に大きな変化を与えるため, 生体内DA反応を触媒する酵素"Diels-Alderase (DAase)"に極めて高い興味が持たれ, 実在性を証明する研究が盛んに行われてきた。 我々はこれまで糸状菌由来二次代謝産物の生合成における, DAaseについて研究を行ってきた。その中で抗HIV活性を有する化合物, Sch210972 (1) の立体選択的な閉環反応に関わるDAase, CghAを見出した。CghAは, 1のオクタリン環形成においてendo選択的な分子内Diels-Alder (IMDA) 反応を触媒する。しかしながら現在までにCghAを含むIMDA反応を触媒する酵素の構造的知見に関する報告は少ない。我々は, DAaseにおける基質認識・立体選択的環化・生成物阻害回避機構について, その分子基盤を解明することを目的に研究を行った。 今回, CghAによるIMDA反応の詳細なメカニズムについて, CghAの分子構造・速度論解析および計算化学によるエネルギー計算から, 合理的な知見を得ることができた。また, CghAの構造に基づいた部位特異的変異導入により, exo選択的IMDA反応を触媒するDAaseの創出に成功した。
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