研究課題/領域番号 |
19KK0160
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岩滝 光儀 東京大学, アジア生物資源環境研究センター, 准教授 (50423645)
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研究分担者 |
高橋 和也 東京大学, アジア生物資源環境研究センター, 特任研究員 (00821109)
鈴木 敏之 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水研機構(横浜), 部長 (70371804)
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研究期間 (年度) |
2019-10-07 – 2023-03-31
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キーワード | 赤潮 / 貝毒 / 渦鞭毛藻 / 系統分類 / 微細構造 / カレニア科 / アンフィドマ科 / 東南アジア |
研究実績の概要 |
東南アジア沿岸域に出現する小型有害渦鞭毛藻であるカレニア科とアンフィドマ科を主対象に,出現種の形態形質と系統的位置を明らかにし,種や個体群レベルでの分布把握を目的として調査を継続している。無殻渦鞭毛藻カレニア科については,フィリピンと日本に出現するKarlodinium(K. australe,K. ballantinum,K. decipiens,K. gentienii等)の初出現報告を行うとともに,マニラ湾産の1未記載種を新種Karlodinium azanzaeとして記載報告した。本種はペダンクルを用いてカイアシ類等の動物プランクトンを攻撃する特徴をもち,これはKarlodinium属内でもK. armigerに続く発見となった。有殻渦鞭毛藻アンフィドマ科については,日本とベトナム沿岸よりAzadinium poporumの出現を確認した。A. poporumの種内系統群としては,日本からは3系統群(A,B,C),ベトナムからは1系統群(B)が出現することを確認した。A. poporumの全ての種内系統群から下痢性貝毒の1種であるアザスピロ酸(AZA-2)の生産が確認され,現在までに確立したアンフィドマ科の培養株の中でも主要な出現種であったことから,A. poporumは日本とベトナム沿岸域における主要なアザスピロ酸生産種である可能性が高い。日本沿岸からはAzadiniumの出現報告がこれまでなかったため,Azadinium poporum,A. trinitatum,A. zhuanumは日本からの初出現報告となり,これらのうち,A. poporum(系統群A)とA. trinitatumはアジアからも初めての出現報告となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
東南アジアにおける赤潮出現情報を海外研究協力者より入手しながら,培養株の形態観察と系統解析を継続している。カレニア科についてはアンフィエズマルベシクルと腹孔の走査電顕観察とLSU rDNAとITS領域に基づく系統解析を進めることで,フィリピン・マニラ湾産株をKarlodinium azanzaeとして新種記載するとともに,Karlodiniumの7種の出現を報告した。カイアシ類等への曝露実験からはK. azanzaeにはペダンクルを用いた捕食能があることを見いだした。透過電顕観察では,ペダンクルに付随する微小管束付近に電子密度の高いベシクルの集合体が見つかった。同様の捕食能をもつ近縁種K. armigerとの比較からも,このベシクルがペダンクルを用いた捕食に関わる可能性が高い。Karlodiniumの小型種4種(K. ballantinum,K. veneficumなど)は属内でも近縁であり,上錐溝と縦溝を繋ぐ一列のベシクルが本系統群に存在することが走査電顕観察で確認されたが,光学顕微鏡下でのこれら4種の識別は困難であった。アンフィドマ科小型渦鞭毛藻については,Azadinium poporumをLSU rDNAとITS領域に基づく分子系統解析により同定した。種内系統群(A,B,C)の鎧板配列を比較したが,系統群間の違いは見つかっていない。また,日本産のA. trinitatumとA. zhuanumは既報の系統群と姉妹群となったため形態比較を進めた。頂板と前挿間板の枚数の違い(割合),そして核の位置に違いが見られたが,原記載者との議論により別種として扱うほどの違いではないと判断し,これらをA. trinitatumとA. zhuanumと同定して報告した。国際ワークショップは2021年3月にオンラインで開催し,9ヶ国から参加した研究者と有害藻類の出現情報を共有した。
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今後の研究の推進方策 |
東南アジア沿岸域における赤潮出現情報の入手と,カレニア科とアンフィドマ科の小型有害渦鞭毛藻を主対象とした形態観察,系統解析,色素分析,そして分布情報の取りまとめを継続する。東南アジアにおける小型有害渦鞭毛藻の採集が可能である場合は実施するが,今年度も国内外における現地調査が実施困難であることが予想される。日本とアジアにおける感染症の状況を見ながら柔軟に対応するが,確立した培養株を用いた研究室内での形態観察,分子系統解析,色素分析を中心に計画し,これまでに形態的・遺伝的形質を収集できている小型有害渦鞭毛藻については種レベルと個体群レベルでの分布情報のとりまとめを進める。カレニア科については色素組成と葉緑体系統の比較,ペリディニンタイプ葉緑体をもつGertia属の未記載種の記載報告を進める。アンフィドマ科については,日本とマレーシアから出現が確認されたAmphidoma languida近縁種の形態観察と,近縁種が不明なAzadinium株の観察を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は8月にインドネシアのジョグジャカルタ,9月に札幌,10月にメキシコのラパス,10月に中国の青島で開催予定であった国際学会が延期となった。WESTPAC-HAB国際ワークショップも国外移動が困難であったことからオンラインで開催した。予定していた東南アジアでの現地調査も延期となった。これらの出張と招聘に関する旅費が次年度使用額となった。この経費は,海外調査や招聘の経費として今後使用予定で,感染症の状況によりこれが困難である場合は,形態観察と系統解析に使用して進める。
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