研究課題/領域番号 |
19KK0167
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
宇波 耕一 京都大学, 農学研究科, 准教授 (10283649)
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研究分担者 |
AbuZreig Majed 鳥取大学, 国際乾燥地研究教育機構, 特命教授 (00835671)
竹内 潤一郎 京都大学, 農学研究科, 准教授 (20362428)
泉 智揮 愛媛大学, 農学研究科, 准教授 (40574372)
真常 仁志 京都大学, 地球環境学堂, 准教授 (70359826)
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研究期間 (年度) |
2019-10-07 – 2024-03-31
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キーワード | 雨水ハーベスティング / 肥沃な三日月地帯 / 脆弱性 / ヨルダン / イラク |
研究実績の概要 |
本研究は,塩性乾燥環境下にあるヨルダン地溝帯の死海沿岸部から冷涼なヨルダン高地,さらには,イラクのニネベ平原を含むメソポタミアへとつづく,肥沃な三日月地帯を対象とする。肥沃な三日月地帯における水と農業の脆弱性に対して頑強な地域を実現するため,雨水ハーベスティング(RWH)が実行可能なソリューションとなりうるという仮説を置く。その仮説を検証するため,肥沃な三日月地帯の各地域における脆弱性の因果律を明らかにし,その脆弱性を克服するためのRWHに関する科学的方法論を構築することを目的とする。 研究サイトとして,ヨルダンにGhor Mazrah (Gサイト),Rabba (Rサイト),Irbid (Iサイト)の3箇所,イラクにMosul (Mサイト)の1箇所を置く。Gサイト,Rサイト,Mサイトは,これまでの科研費研究ですでに観測装置などを設置しており,とくにGサイトでは自律分散型灌漑スキームのプロトタイプを構築して大規模な実験を継続中である。一方,Iサイトでは,本研究においてRWHの実験観測施設を新たに構築する。 宇波(研究代表者)は,2019年11月と2020年2月にヨルダンへ渡航し,GサイトとRサイトの維持管理,ならびに,多地点から水サンプルを収集した。水サンプルは,真常(研究分担者)の主導により,窒素と酸素の安定同位体分析を行う準備を整えた。また,Iサイトの構築に向けて,測量や基礎的なデータの収集を行った。2020年3月に,泉(研究分担者)とAbu-Zreig (研究分担者)が,IサイトへのRWH実験観測施設構築を計画していたが,COVID-19対策のため2020年度へ延期した。 理論面に関しては,竹内(研究分担者)が浸透現象に関するモデル化を推進した。また,Gサイトを構成する除塩プラントについて,水・エネルギー収支のモデル化を行った論文が出版された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
肥沃な三日月地帯の各地域における脆弱性の因果律の解明を,以下3班に役割を分担して研究活動を行ってきた。1) 気象水文時系列のモデル化:各サイトや測候所における洪水,渇水,塩害に関連する脆弱性の因果律を明らかにするためのモデルを開発する。データ収集とモデル化を,宇波とFadhil (研究協力者)が担当する。2) 浸透現象と蒸発散現象のモデル化:サイトによって異なるさまざまな土において生じる浸透現象と蒸発散現象について,特異性をうまく記述できるモデルを多孔質媒体方程式や曲率流を用いて探求する。数理モデル化と実験との連携を軸とした包括的研究の遂行を泉が主導し,竹内が協力する。3) 栄養塩循環過程の定量的評価:Gサイトでは,集水域土壌,貯水池貯留水,受益農地土壌水,液肥,ナツメヤシの各部位について窒素の安定同位体分析を行い,分光光度計と多項目水質計による水質分析も併用しつつ,自律分散型灌漑スキームにおける栄養塩循環過程を定量的に明らかにする。Rサイトおよびその周辺では,放牧地,灌漑農地,天水農地の土壌水,湧水,オリーブの各部位と搾油廃棄物などについて同様の調査を行い,ヨルダン高地全体における栄養塩循環過程の解明を試みる。真常が主導して行う。 COVID-19のパンデミックにより,以下の遅れが生じている。1班では,全変動流や分数階常微分方程式の概念を用いた方法論をとりまとめ,複数の論文を国際学術誌に投稿したが,欧州を中心に行われている査読が難航している。2班では,格子ボルツマン法や間隙ネットワークを用いた理論研究に進捗があったが,要となるIサイトへのRWH実験観測施設構築が延期となっている。3班では,Gサイトなどでの測定試験により検証すべき仮説の設定に至ったものの,京都大学における新規実験の禁止により水サンプルの安定同位体分析を終えることができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
COVID-19パンデミックの終息が前提となるが,IサイトへのRWH実験観測施設構築と研究参画者全員によるヨルダン現地調査を目指す。状況によっては,国際宅配便によって機器をヨルダンへ送付し,研究協力者と現地雇用者によってその設置と維持管理を行う可能性もある。 この状況下で,当面は,研究参画者間でのオンライン会議を活発に行いつつ,以下とおり理論的側面の研究を推進する。まず,Gサイトに既設の自律分散型灌漑スキームの知見を普遍化し,構造・水理設計指針を整備する。受益地圃場では,付加価値の高いナツメヤシ品種を栽培中であり,作物生育,土壌水,熱,塩分,栄養塩の相互作用の数理モデルを,特異拡散型方程式や分数階微積分学の知見を用いて構築する。Iサイトで計画しているRWHは,マイクロ集水域での水分捕捉を行うオリーブ樹園であり,多孔質媒体方程式や曲率流を用いたモデル化を通じて現象の予測を行う。RWHの多目的最適運用戦略に関しては,さまざまな最適制御問題に帰着させて検討する。とくに,浅水湖モデルに代表される水質・生態系の制御モデルにおいて現れる,解の爆発や分岐が起こる非凸問題について重点的に取り組んでいく。さらに,肥沃な三日月地帯全域におけるRWHの展開に向け,線型計画法,全変動流,ならびに分数階微積分学を用い,新しい流出モデルや渇水モデルの構築,貯水池の最適運用戦略の逆推定を行っていく。これには,イラク政府機関からモスル大学を通じて得られるデータのほか,Mサイトに設置した自動観測装置から得られるデータを活用していく。 成果の発信については,国際学術誌での発表を主に行うが,国際会議でのセッション企画あるいは研究集会を,各年度1回ずつ主催することを目標とする。また,重要な成果について広く広報するため,報道機関との連携も進めている。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19パンデミックにより、予定していた海外(ヨルダン)出張、ならびに、実験を、年度内に実施できなくなり、次年度に行うこととしたため、次年度使用額が生じた。実施できなかった出張と実験は、予定の内容で次年度に行うので、当該額を使用する。
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