研究課題/領域番号 |
19KK0169
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
田中 史彦 九州大学, 農学研究院, 教授 (30284912)
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研究分担者 |
田中 良奈 九州大学, 農学研究院, 助教 (80817263)
今泉 鉄平 岐阜大学, 応用生物科学部, 助教 (30806352)
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研究期間 (年度) |
2019-10-07 – 2022-03-31
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キーワード | 農業工学 / マルチスケール / シミュレーション / イメージング / ポストハーベスト工学 |
研究実績の概要 |
本年度は渡航が困難なことからネット利用による情報交換と代替として国内での研究を実施した。 まず、(1)ナノスケール観察では、農産物に内在するペクチンの状態について、化学組成分析および原子間力顕微鏡(AFM)観察を行った。乾燥工程における変化では、品種や前処理の有無によってペクチンの組成やナノ構造が大きく異なることが明らかとなった。A3次元構造モデルの構築では、国際共同機関研究者Artur Zdunek 教授とPiotr Pieczywek博士の協力により、AFM観察結果を基に3次元FINEST構造をコンピュータ上に再現することを可能とした。なお、この形状モデルは汎用性の高いSTL形式ファイルで保存し、今後の各種シミュレーションに用いることとする。 つぎに、(2)マイクロスケール観察では、X線μCTを用いた3次元構造解析をスプラウト類の植物に適用した。VG Studioを用いたモルフォロジー解析により組織内に分布する個々の空隙について形状特性の把握を行った。組織内の空隙サイズと球形度には一定の相関性が認められ、また、空隙率が組織の力学物性に影響を及ぼす因子であることが示された。モデリングでは、細胞組織内の熱・ガス移動シミュレーションを行い、空隙率との関係で整理した。つまり、空隙率から拡散係数が推算できるということである。 また、デンプン粒子レベルの研究では、粒子のモルフォジー特性を調査するため、フロー式粒子像分析装置を用いた。4植物種デンプンのいずれにおいても2千粒子以上から個別の形状特性を得た。従来よく用いられてきた粒子径だけでなく、アスペクト比や円形度といったパラメータを用いることで各植物種のデンプンを特徴づけることが可能であった。 この他、生物由来高分子に植物精油やナノ金属粒子等を添加した機能性フィルムを製造し、そのFINEST構造をSEMやAFMを用いて解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで長年実施してきた相手機関との共同研究と双方の渡航の経験から、若手育成を視野に入れた共同研究は順調に進んでいる。3つの中課題のうち、(1)AFMによる各種生物材料のナノ構造の観察AFMによるデータ蓄積を行っている。ナノレベルでの3D FINEST構造再構築も可能にしたことから、マルチフィジックス・シミュレーションの基礎モデル開発にも進んでいるが、渡航が可能であれば現地での直接の技術習得が必要であると考える。つぎに、(2)X線μCTによる生物材料のミクロ構造の3Dイメージングとマルチフィジックス・シミュレーションについては、日本側の研究者が主体となるためイメージングならびに各種マルチシミュレーションモデルの構築は順調に進んでいる。最後に、(3)FINEST解析フレームワークの構築については、(1)と(2)の結果を繋ぐキーパラメータの検索も引き続き継続中である。 九大グループの在外研究を計画していたが、世界的なコロナウイルス感染拡大による入国制限ならびに受入機関の行動制限によって実施不可能となったままである。このため、ネットを通じたやりとりで研究を遂行している。この点については研究の遂行は遅れていると言わざるを得ないが、総合的に判断すると研究自体はほぼ計画通りに遂行されていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
先に示した3中課題について、(1)では、引き続きAFM測定と画像分析を専門とするZdunek教授、Cybulska研究員他とのサブユニットを構成し、ナノスケール観察データの蓄積と分析、ならびに 、コンピュータ・シミュレーションによるポリマー集積モデル化を専門とする Pieczywek研究員と共にプログラム開発から改良に至る一連の研究を継続して行く。同時にペクチン分子の化学組成解析をすすめナノ構造変化のメカニズムを調査することでシミュレーションの妥当性を検証する。つぎに、(2)については、引き続き生物材料の構造解析を進めるとともに熱物性や消化性との関係についても解明して行く。また、FINEST空間における諸現象を解析するモデルを高度化して行く。(3)については、 (1)と(2)で遂行する研究をそれぞれの要素技術を統合することで体系化し、ナノとミクロ、マクロ、それぞれの場をつなぐマルチスケール解析を目指す。以上のように、研究の方向性は前年度と同様とするが、渡航制限が解除されるまでは、当面、ネットを介した情報交換により研究を遂行せざるを得ない。このため、滞在計画が次年度にずれ込むことも視野に入れた対応が可能となることを希望する。さらに、受入機関のみが所有する解析ソフトライセンスやに日本側では所有していない装置等もあり、これに予算計上することも検討中である。 現在のところ、相手機関の受け入れは難しいとの判断で秋以降で調整を行っているが、これが困難な場合には研究期間の延長も強く希望する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度も、一昨年度に続き本年度も計画していた在外研究がコロナウイルス感染拡大による渡航制限により見送られた。このため、次年度使用額が生じた。この分は次年度以降に滞在期間を調整したり、受入機関のみが所有する機器等に予算計上するなど措置を講じる。現在のところ、相手機関の受け入れは難しいとの判断で秋以降で調整を行っているが、これが困難な場合は研究期間の延長も願い入れたい。
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備考 |
Best Research Paper Award受賞, ICAMSE2021(Organized by Panjab University, Chandigarh, India)
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