研究課題/領域番号 |
19KK0172
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
今内 覚 北海道大学, 獣医学研究院, 准教授 (40396304)
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研究分担者 |
前川 直也 北海道大学, 獣医学研究院, 特任助教 (70829035)
岡川 朋弘 北海道大学, 獣医学研究院, 特任助教 (80829036)
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研究期間 (年度) |
2019-10-07 – 2023-03-31
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キーワード | 家畜悪性感染症 / 免疫破綻 / 免疫疲弊化 / 免疫チェックポイント / プロスタグランジンE2 / マダニ / 慢性感染症 / ウシ |
研究実績の概要 |
家畜やヒトの外部寄生虫であるマダニは、吸血により家畜の生産効率を低下させたり人獣共通感染症を含む多くの重要な病原微生物を媒介するため世界各国で対策が重要視されている。マダニによって媒介される牛の悪性感染症には、バベシア原虫やタイレリア原虫の感染によるピロプラズマ症、リケッチアによる感染症であるアナプラズマ症などがある。これらの感染症は罹患動物の致死率が高く、日本の監視伝染病のうち、極めて重要な疾病として法定伝染病に指定されている。ピロプラズマ症およびアナプラズマ症に対する有効なワクチンはなく、世界中で甚大な被害を与え続けている。これらの起因病原体は、オウシマダニをはじめとするマダニによって媒介されることからマダニの駆除が最も重要である。しかし現在のところ、マダニに対する効果的な防除法は十分には確立していない。マダニに対する防除法として、駆虫剤(殺ダニ剤)による駆除が一般的であるが、殺マダニ効果には限界があり、コストの面の問題に加え使用薬剤に対する耐性マダニの出現、薬剤散布による環境汚染、畜産製品への薬剤残留など多くの問題点が指摘されている。そこでマダニが媒介する病原体の伝播機序の解明、家畜悪性感染症の病態発生分子機序の解明及び新規制御法の開発を目的にブラジル・リオグランデドスール連邦大学と共同研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度は、マダニ媒介性悪性感染症による病原体伝播機序の解明と新規制御法の開発を目的にブラジル・リオグランデドスール連邦大学と共同研究を行った結果、マダニの唾液中にはプロスタグランジンE2(PGE2)が高濃度で含まれており、宿主免疫細胞からのTh1サイトカイン産生やT細胞増殖などの免疫応答を著しく抑制することを明らかにした。しかし、マダニの唾液には、PGE2の他にも様々なプロスタグランジン(PG)が含まれる。 そこでさらに様々なPG(PGA1、PGB2、PGD2、PGE2、PGF1α、PGF2α)の免疫抑制プロファイルをウシの末梢血単核細胞(PBMC)を用いて検討した。その結果、PGE2に加え、PGA1などもウシのPBMCからのTh1サイトカイン産生を有意に抑制することが明らかとなった。さらにPGA1に着目した解析を行ったところ、コンカナバリンA(Con A)存在下でPGA1を処理すると、CD4+およびCD8+T細胞の両方で活性化マーカーであるCD69とIFN-γの発現が有意に抑制されることが明らかとなった。また、Con Aで刺激したCD3+T細胞をPGA1とともに培養すると、IFN-γとTNF-αの産生が著しく減少した。これらの結果からマダニの唾液内に含まれるPGはPGE2のみならず様々なPGも免疫抑制に関与し、マダニの吸血や病原体伝播に関与していることが新たに明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
本共同研究の遂行によって、マダニの唾液に含まれるPGE2が宿主免疫を強烈に抑制することや牛の悪性感染症の病態発生機序にPGE2が関与することが明らかとなった。さらに、PGE2は妊娠後期に子宮や胎盤から大量に放出され疾病感受性を高めることも新たに明らかとなった。得られたこれまでの成果を基盤に、今後もPGE2の誘導機序を明らかにすることで、PGE2を介した免疫抑制機序を標的とした新規制御法の開発を推進したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度の研究が順調に進み、現在更なる解析結果待ちである。解析結果次第では、2022年度に予定している研究計画に追加で試薬を購入し、追加試験を実施する必要が生じたため。
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