研究課題/領域番号 |
19KK0177
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
小出 剛 国立遺伝学研究所, 遺伝形質研究系, 准教授 (20221955)
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研究分担者 |
川崎 淨教 香川大学, 農学部, 助教 (30739206)
村山 美穂 京都大学, 野生動物研究センター, 教授 (60293552)
松本 由樹 香川大学, 農学部, 准教授 (90335844)
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研究期間 (年度) |
2019-10-07 – 2025-03-31
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キーワード | マウス / 家畜化 / 神経回路 / 遺伝子発現 / 従順性 / グラスカッター |
研究実績の概要 |
本プロジェクトでは、研究代表者らがマウスで培ってきた選択交配による家畜化法を使い、扱いやすく繁殖の容易な集団を作出すると共に、グラスカッターの表現型、特に繁殖・行動・免疫・組織学的特徴について解析し、新たな実験動物としての可能性について検討するものである。 2020年度は、グラスカッターの全ゲノムシーケンスデータを用いて、遺伝子のアノテーション解析を進めると共に、進化的な解析を進めた。特にグラスカッターが属するヤマアラシ亜目における進化的な位置づけに関する解析を進めることができた。また、嗅覚受容体遺伝子など機能的な遺伝子についての解析を進めることができた。 ガーナ在来のグラスカッターを用いて家畜化を進めるために、家畜化において重要な役割を持つ行動指標「人へのなつき(テームネス)」について定量化するための実験系の確立を進めた。行動指標の定量化は同一個体に対して複数回実施することで、飼育環境の影響などについても検討を加える解析を進めているところである。 また、ガーナ大学において、協同研究者と協力して飼育施設の整備を進めた。2020年度には飼育施設の整備が完了しており、グラスカッター個体の飼育繁殖を開始した。これにより、今後大規模での飼育繁殖が可能になる。これら、繁殖個体について、家畜化に関する指標について行動テストにより解析をする基盤も整備することができた。これにより、各交配ペアより繁殖した仔を用いて、行動指標の解析を行い、家畜化指標の高い個体について選択して次の交配に使用する予定である。この方法により、グラスカッターの家畜化に向けた選択交配が可能になると期待される。これらの基盤が整備されたことにより2021年度に向けた研究の展開が可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は、新型コロナの影響により、ガーナ大学への訪問はできなかった。そのため、共同研究がかなり制約される状況となった。その中で、ゲノム配列の解析を中心的に進めた。遺伝子発現データを用いて、各組織における発現遺伝子を網羅的に解析することができた。これらの結果は、今後の動物種間の比較解析に役立てることができる。また、種間の違い、特にグラスカッターの特徴を示す上で不可欠のデータが得られたと考えている。 また、共同研究者と協力して、ガーナ大学で飼育されているグラスカッター個体の繁殖に努めた。すでに飼育施設の整備が完了しており、繁殖も順調に進みつつある。したがって、今後行動データの取得等について解析を進めることが可能になり、選択交配に関する基盤整備ができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ガーナ大学ではグラスカッター個体の繁殖が順調に進んでおり、解析に供する個体がそろいつつある。これらの個体を用いた行動解析などが可能になると期待される。さらに、現在これらの個体を用いたゲノム解析の準備を進めつつある。これにより、将来的に「行動をもとにした選択交配」と「ゲノム情報をもとにした育種」を用いて家畜化を進めることが可能になると期待される。すでに、グラスカッター繁殖個体のテームネス評価により高いテームネスの値を示す個体の選出を行うための手法の開発は完了している。そのために、ガーナ大学の飼育施設で飼育する50個体の親個体について、従順性の定量を行う。この個体の交配により得られた次世代については、従順性の評価により可能な限り上位20%の個体を使い交配を進める。その際、遺伝的多様性を保つために、ランダム交配の手法を適用する。 また、ゲノムデータを用いて、マウスで得られた家畜化関連領域の相同領域に関する情報からグラスカッターで家畜化に関わる遺伝子領域の解析を進める。 2021年度も新型コロナの影響により、ガーナへの渡航を実施することは難しいと予想される。そのため、万一渡航ができない場合でも、本研究を停滞させないために工夫をしながらプロジェクトを推進するつもりである。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナの感染拡大の影響により、海外出張ができず、研究調査のための渡航ができなかったため。令和3年度においては、感染状況が改善して渡航が可能になれば、改めてガーナへの渡航を実施すると共に、それに伴い、ゲノム育種を実施するために必要なサンプルの採取と解析などの実験を行う計画である。
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