6種のアノールトカゲ複数種の全ゲノムを用いて、生息温度環境の類似する系統で共通して塩基配列が大幅に変化(加速進化)した領域を調べることにより、温度適応に寄与する候補ゲノム領域の検出を行った。その結果、開放部の高温環境と森林部の低温環境に生息する系統の双方で概日リズム調節や行動などに関わる遺伝子やその近傍で加速進化が検出され、これらの機能が生息環境への適応に重要であったことが示唆された。 昨年度実施したキューバ産およびプエルトリコ産アノールトカゲにおける計5種の比較トランスクリプトーム解析を継続した。26℃と33℃という温度処理のもとで変動した遺伝子(DEG; すなわち発現量に温度感受性がある遺伝子)と、Expression Variance and Evolutionモデル(Phylogenetic ANOVA; 系統特異的に発現量のベースが変化している遺伝子)によって検出した遺伝子を比較した。プエルトリコ産アノールトカゲにおいて、両条件に合致する遺伝子として高温刺激によって活性化されるTRPV1チャネルを検出した。本種は低温嗜好性をもつことが示唆されている。他種に比べて高いTRPV1発現量を維持し、高温刺激を敏感に感知することで、自身にとって危険な高温環境を避けていることを示唆している。これまでの研究で、温度感受性TRPの活性化温度という配列ベースで決まる性質が高温刺激に対する応答として重要であることは示唆されてきたが、本年度の解析によって、温度感受性TRPの発現量調節による環境応答も重要である可能性を示唆する結果を得ることができた。また、新たなモデル生物種としてソメワケササクレヤモリを用いたて現段階としては、温度に対する応答について他の生物種との比較を行った。
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