研究課題/領域番号 |
19KK0195
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
竹内 英之 名古屋大学, 医学系研究科, 准教授 (80361608)
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研究分担者 |
田嶌 優子 名古屋大学, 医学系研究科, 助教 (10423104)
LO PEIWEN 名古屋大学, 医学系研究科, 研究機関研究員 (20822406)
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研究期間 (年度) |
2019-10-07 – 2022-03-31
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キーワード | O-グルコース糖鎖 / 構造多様性 / Notchシグナル / 質量分析 |
研究実績の概要 |
研究代表者は、日本、中国、米国の研究者と共に、Notch受容体のO-グルコース糖鎖修飾が、その機能発揮に必須であることを世界に先駆けて報告してきた (Cell 2008, Nature Chemical Biology 2015, 2016, EMBO Mol Med 2016)。最近の研究代表者の研究で、O-グルコース糖鎖にはこれまで知られていなかった構造的多様性があることが分かってきた。本国際共同研究では、生化学、遺伝学、分析化学、構造生物学の専門性的手法を糾合し、まず O-グルコース糖鎖修飾の構造多様性、そして、その生物化学的意義と生合成の構造的基盤を世界で初めて明らかにする。 本年度は、Notch2 受容体の細胞外部位に起こる糖鎖修飾に着目し、質量分析計を用いた分子量の精密な分析を行った。その結果、Notch1 に初めて検出された新奇 O-グルコース糖鎖構造であると推定された構造が、キシロース転移酵素をノックアウトした細胞由来の Notch2 の 12番目と 33 番目の EGF ドメインに見出された。以上の実験データを論文としてまとめ投稿した。また、Notch 受容体を修飾するキシロース転移酵素と同じファミリーに属する機能未知の遺伝子に着目し、収量は低いものの、GLT8D1 および GLT8D2 のリコンビナントタンパク質の作製を行った。
研究代表者は、Notch 受容体機能の糖鎖修飾による制御機構に関する原著論文3 報、並びに、総説 2 報の発表に貢献した。また、研究成果について、アメリカ糖鎖生物学会においてポスター発表、第 92 回日本生化学会大会において招待口頭発表、日本筋学会第 5 回学術集会において招待口頭発表、第 7 回若手による骨格筋細胞研究会において招待口頭発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題 1: GT8 ファミリー糖転移酵素群の個体・細胞レベルでの機能解析。研究代表者とベイラー医科大学Jafar-Nejad博士が担当。Gxylt1、Gxylt2ノックアウトマウスの胚発生におけるNotchシグナルの解析を開始した。O-グルコース転移酵素 Poglut1 のノックアウトでは、Notchシグナルに依存的な体節形成、神経発生、心形成と血管のリモデリング過程すべてにおいて異常がみられた。本年度の研究で、Gxylt1 KOマウスも、胎生致死となることが明らかとなった。対照として、Gxylt2 KOマウスの胚発生も観察したが、非常に興味深いことに、こちらは胎生致死の表現型を示さないことが明らかとなった。 課題 2: Notch2上に見出された多様な新奇O-結合型糖鎖構造の性状解析と、その生合成を担う糖転移酵素の同定。研究代表者とジョージア大学 Tiemeyer 博士が担当。キシロース転移酵素をノックアウトした細胞由来の Notch2 の 12番目と 33 番目の EGF ドメインに、新奇 O-グルコース糖鎖構造を見出した。 課題 3: GT8ファミリー糖転移酵素群の原子レベルでの機能解析。研究代表者とジョージア大学 Haltiwanger 博士およびYu 博士が担当。GXYLT1と受容基質との複合体の立体構造をX線結晶構造解析により明らかにするために、Haltiwanger博士がリコンビナントタンパク質としてGXYLT1の作製を行った。研究代表者は、受容基質 EGF タンパク質の作製を行い、Notch2 の EGF4 および EGF12 が、大腸菌発現系での収量が高いことが分かった。さらに、収量は低いものの、GLT8D1 および GLT8D2 のリコンビナントタンパク質の作製を行った。
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今後の研究の推進方策 |
課題 1: GT8 ファミリー糖転移酵素群の個体・細胞レベルでの機能解析 研究代表者とベイラー医科大学Jafar-Nejad博士が担当。Gxylt1 KOマウスでも、これらの過程に異常を来しているか調べるために、胚の免疫組織化学的観察を本研究チームの既報通り行う [Fernandez-Valdivia, Takeuchi, et al. 2011 Development]。対照として、胎生致死の表現型を示さない Gxylt2 KOマウスの胚も解析する。状況が許せば、大学院生の浦田雄輔をベイラー医科大学に派遣する。 課題 2: Notch2上に見出された多様な新奇O-結合型糖鎖構造の性状解析と、その生合成を担う糖転移酵素の同定 研究代表者とジョージア大学 Tiemeyer 博士が担当。HEK293T細胞に発現させたNotch2のEGF12 あるいは EGF33を含む糖ペプチドを対象として新奇O-結合型糖鎖糖鎖の付加位置と構造を化学的に決定し、生合成の責任酵素を同定する。状況が許せば、研究代表者がジョージア大学に赴いて実験を行う。 課題 3: GT8ファミリー糖転移酵素群の原子レベルでの機能解析 研究代表者とジョージア大学 Haltiwanger 博士およびYu 博士が担当。上述の EGF4 と EGF12 ドメインは、質量分析による糖鎖修飾の解析から、細胞内においても、キシロースの伸長をうけていること、また、特に EGF12 は、Notch2 のリガンド結合ドメインに位置していることから、GXYLT1 との複合体形成実験に適していると判断し、今後これらを用いて研究を進めていく。また、作製した GLT8D1 と GLT8D2 の、糖ヌクレオチドドナーに対する加水分解活性を測定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、研究代表者が自ら米国のジョージア大学に赴いて研究を行うことを予定していたが、コロナウイルス禍の進展のため、感染拡大防止の観点から、渡航を取りやめたこと、並びに、Notch 受容体タンパク質上の糖鎖の質量分析計を用いた解析が、予想よりも、少ない試行回数で達成できたことが、主な理由である。 翌年度分として請求した助成金と合わせ、今後、状況が許し次第、研究代表者が米国のジョージア大学に赴き研究を実施すること、また、別の研究協力者の大学院生を米国のベイラー医科大学に派遣し、それぞれ研究を遂行することにより、既に進行中の両研究機関における共同研究を加速させる計画である。
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