研究課題/領域番号 |
19KK0197
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
中川 秀彦 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(薬学), 教授 (80281674)
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研究分担者 |
川口 充康 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(薬学), 講師 (10735682)
家田 直弥 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(薬学), 講師 (00642026)
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研究期間 (年度) |
2019-10-07 – 2023-03-31
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キーワード | 蛍光プローブ / エピジェネティクス / イメージング / ケミカルバイオロジー |
研究実績の概要 |
エピジェネティック制御は近年大きな注目を集めている遺伝子発現及び細胞制御機構の1つであり、生命維持の基本的機構に関わると共に、多くの疾患に関連することが明らかになりつつある。エピジェネティック制御酵素の活性検出蛍光プローブの開発手法について検討し、各酵素特異的なイメージングプローブを開発するを目標として研究に着手した。 これまでにin vitro蛍光プローブの開発を進めてきたエピジェネティック酵素の1種であるSIRTアイソザイムについて、開発を進めている。SIRTはタンパク質リシン側鎖に生じたエピジェネティック修飾の1つであるアセチル化修飾を加水分解しアミノ基に変換する活性を有する酵素として報告されたが、アイソザイムのいくつかは脱アセチル化のみならず、脱アシル化を触媒することが近年報告された。特に長鎖脂肪酸由来のアシル基が結合したリシン側鎖の加水分解を行うことが知られ、アセチル化とアシル化の機能の違いが注目されている。 本年度は、脱アシル化を蛍光検出するプローブの改良を行い、多様なペプチド配列および蛍光消光団を組み合わせたペプチドプローブライブラリの構築を行なった。その結果、SIRTの各アイソザイムに対して異なる反応性を示し、そのうちの1つはSIRT3に優位な反応性を示すことが判明した。 また本年度は、脱アシル化反応阻害活性を有するペプチド性SIRT2阻害剤(本研究の過程で見出したもの)について、細胞膜透過性を付与する検討を行なった。細胞膜透過性付与の戦略として、ポリアルギニン導入および環状化について検討した。ペプチド鎖短縮は前年度の検討の結果から上記2つの戦略が奏功しない場合に検討することとした。その結果ポリアルギニンを導入したペプチド性阻害剤でSIRT2阻害能および有効な細胞増殖抑制効果が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、これまで開発したプローブについて多様性を志向した改良を行い、複数のペプチド配列と複数の蛍光消光団を組み合わせたプローブライブラリの構築に成功し、SIRT3に優位に反応するプローブを見出した。また これまで開発したプローブの構造を参考に見出されたSIRT2阻害ペプチドについて細胞膜透過性に着目して改良を行ない、in vitroでSIRT2阻害活性を保持しつつ、培養細胞で細胞増殖を抑制する活性をもつSIRT2よりSIRT2特異性の高いプローブを取得することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、SIRTアイソザイムに対してSIRTプローブライブラリを適用し、プローブの組み合わせによってSIRTアイソザイムの特異的検出法を検討する。また今回見出したSIRT3に特異性の高いプローブを利用してSIRT3活性を細胞系で検出できるようプローブの改良を検討するとともに、これまで行なってきたSIRT2に対する培養細胞用プローブも開発を進める。 プローブの反応性に基づいて同定したSIRT2阻害ペプチドについては、見出された細胞増殖抑制効果が細胞内SIRT2阻害活性と相関するか、細胞膜透過性はどの程度かについて、検証を進める。また、細胞増殖阻害の実験および細胞膜透過性の実験を通じて得られた知見を活用して、前述の蛍光プローブの細胞膜透過性を検討する。 一方、研究過程で細胞内導入が困難と判明した高分子ペプチドプローブについては、細胞内インジェクションに 導入することを検討すると同時に、非天然アミノ酸タンパク質発現の技術を用いて細胞内導入しそのあと蛍光団、消光団の導入を行えるよう、クリック反応を活用した蛍光団、消光団、ペプチド側鎖の検討を進める。これらの検討のうち、非天然アミノ酸を用いる検討については海外共同研究者の研究室で研究代表者、研究分担者が実施する。 これらのプローブ技術を培養細胞に適用するため、細胞内導入後に蛍光団、消光団の導入を行えるよう、クリック反応を活用した蛍光団、消光団、ペプチド側鎖の検討を進める。これらの検討のうち、非天然アミノ酸を用いる検討については海外共同研究者の研究室で研究代表者、研究分担者が実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費について細胞膜透過性ペプチドの合成および評価に想定以上の検討が必要となった結果、多くの試薬および器具の購入が必要となった一方、当初予定していた研究代表者および研究分担者の海外における研究(海外研究協力者の研究機関での研究)が、ウイルス感染症の蔓延による先方受け入れ機関の閉鎖により実施できず、その後も先方受け入れ機関への渡航を自粛するよう本学および先方機関からの要請があったため、海外機関における研究で使用する予定であった旅費は使用しなかった。その結果、次年度使用額が生じた。 次年度には先方受け入れ機関の状況を検討しつつ、海外協力研究者と打ち合わせを行い、海外渡航旅費に使用することで研究を推進する。
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