研究課題/領域番号 |
19KK0204
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
押谷 仁 東北大学, 医学系研究科, 教授 (80419994)
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研究分担者 |
乙丸 礼乃 東北大学, 医学系研究科, 大学院非常勤講師 (00849416)
岡本 道子 東北大学, 医学系研究科, 助教 (10593981)
古瀬 祐気 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 特定助教 (50740940)
小田切 崇 岩手医科大学, 医学部, 助教 (80770221)
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研究期間 (年度) |
2019-10-07 – 2023-03-31
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キーワード | 呼吸器ウイルス / フィリピン / 分子進化 / 疫学 / ウイルス学 |
研究実績の概要 |
RSウイルス:全ゲノムを解析するためのプロトコール検討をおこなうとともにウイルスゲノムの多様性を解析するための新たなアルゴリズムを開発した。またフィリピンビリラン島のコホート研究では、特にRSウイルス流行に焦点を絞り集中的に収集した検体を用いて、RSウイルスの遺伝子型分類を決定するG遺伝子の塩基配列の解析を実施した。研究方法について現地研究者とともに議論し、現在までに得られた情報を最大限活用、さらなる解析を実施する方針を検討した。インフルエンザウイルス:フィリピンで分離されたC型インフルエンザウイルス(FluC)のHE遺伝子の塩基配列を決定することで流行株の性状を解析した。研究者内で打ち合わせを行い、これまでのフィリピンでの流行状況の確認やウイルスの性状解析結果の情報共有を行うことで今後の研究方針を検討することができた。ヒトメタニューモウイルス(HMPV)、パラインフルエンザウイルス、エンテロウイルスD68 (EV-D68):各ウイルスの部分遺伝子の解析をおこなった。その結果、過去5年間全てのウイルスで遺伝子型もしくは血清型に多様性が見られた。特にHMPVは日本やヨーロッパで報告されているG遺伝子に重複配列が挿入されたウイルスが検出されたことから、他地域からのウイルスの流入が明らかとなった。また系統樹上では全てのウイルスが採取時期毎にまとまったクレードを形成していたことから、ローカルな伝播を起こしていることも明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
呼吸器ウイルスの中でも特に疾病負荷の高いRSウイルスに着目し、その分子疫学的研究を行うための技術基盤の確立を試みた。このウイルスは乳児で特に重症な急性下気道感染症の原因ウイルスであるが年長児を含めた成人も感染する。これまでの多くの研究では、ウイルスゲノムの一部のみを用いて分子疫学的な検討が行われていたが、全ゲノムを対象とすることでより詳細かつ正確な解析が可能となることが国外の研究者によって報告されている。そこで、RSウイルスの全ゲノムをより安価かつ簡便に解読するためのプロトコールを検討した。また2018-19年のRSウイルス流行中に、フィリピンで定期的な世帯訪問により世帯に居住する家族の症状を観察し、感染者が確認された世帯では、家族全員から複数回にわたり鼻腔スワブ検体を採取した。RSウイルスがPCRで検出された検体に対し、G遺伝子の一部を対象にSanger法を用いたヌクレオチドシーケンス解析を実施し、塩基配列および遺伝子型を決定した。同一の家族から得られたウイルスの塩基配列は非常に類似しており、家族が異なる配列のウイルスに感染していたと考えられる例は認められなかった。一方で異なる世帯で検出したウイルスの比較では、同じ遺伝子型であっても多様な塩基配列のウイルスが確認された。FluCについては乳幼児において肺炎のリスクを伴い、ウイルスの抗原性は表面蛋白であるHE蛋白によって6つの系統に分けられる。そこで2013年以降にフィリピンで採取されたFluCのHE遺伝子の塩基配列を決定することで系統分けを行い、日本の流行株との比較を行うことで興味深い結果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
フィリピンで収集された検体を用いてRSウイルスの全ゲノム解析のためのプロトコールを完成させ解析を行う。得られたデータに対して、系統地理学など既存の手法と、我々が新規に開発したアルゴリズムとを融合させた解析を行い、呼吸器ウイルスの地理的な感染伝播のメカニズムを明らかにする。 また流行中にみられるこのウイルスの多様性を規定する因子や、翌年の流行への影響など多くの点が明らかになっていない。G遺伝子は進化を解析する部位とし て重要であるとされてきたが、今後は他の遺伝子を含めた全塩基配列の解析を進める。 FluCはA型、B型インフルエンザウイルスと同様に分節性の遺伝子をもち、遺伝子再集合(リアソートメント)を頻繁に起こしていることがわかっている。このリアソートメントがウイルスの進化機構の1つとされている。そこでHE遺伝子以外の残り6本の遺伝子に関しても塩基配列を決定しリアソートメントの有無を確認することでFluCの進化動態を明らかにしていく。またこれらのウイルスの全ゲノム解析をおこない詳細な伝播・進化過程についての解析を行うものとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大のため2020年2月中旬以降フィリピンへの渡航が困難となり研究を進めることが困難となったこと、および検査用の試薬類が全世界的に供給困難な状況となった。両国の感染者状況が改善し落ち着きを取り戻せば研究を再開しフィリピンで保管している検体を日本に輸送し解析を行う予定である。
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