研究課題
主にアジアで流行する三日熱マラリアは、致死性の低さおよび原虫の入手が困難なことから、保健衛生や経済活動面における影響の大きさにも関わらず対策が遅れている。媒介蚊の体内でマラリア原虫の発育を止める伝搬阻止ワクチンの開発が期待されているが、未だ実用化されたものはない。本研究は、流行地の住人の血漿に 伝搬阻止効果が認められることに着目し、自然感染により獲得された伝搬阻止抗体が、どの原虫タンパク質によって誘導されたかを明らかにすることで、有効なワクチン抗原を探索することを目的とし、タイ王国の研究者と連携し共同研究として実施する。 本課題では、伝搬阻止効果を持つ患者血漿により 共通に認識されるタンパク質をプロテインアレイを用いてスクリーニングを実施する。本年度は、3年ぶりに感染流行地のタイ王国を訪問し、マラリア診療所にて患者血液と抗体を混合し、媒介蚊に吸血させることで伝搬阻止効果を評価できた。最適な条件下で実験が行えたが、コントロールと比較して有意に伝搬を阻害する抗体はなかった。流行地株の遺伝子多型による影響か解析するために、患者由来原虫ゲノムの抽出を行った。さらに、昨年度開発した三日熱マラリア原虫の標的分子のみを発現させたキメラ型ネズミマラリア原虫を、今年度もさらに1種類作成した。患者由来株で伝搬を抑制しなかった抗体が、標準株の配列に対して効果があるか今後解析を行う材料が得られた。新たに伝搬阻止ワクチン標的候補分子を探索する目的で、局在解析のためにネズミマラリア原虫に候補三日熱マラリア原虫分子を発現させた原虫を2種類作成した。
3: やや遅れている
新型コロナウイルス感染症により、長期間渡航が制限されたために、研究サンプルが得られず、また患者血液を用いた伝搬阻止効果測定の実験を行うことができず、遅れが生じた。
準備した抗体で伝搬阻止効果が得られなかったのが、患者由来株の遺伝子多型によるのか、抗体の力価の問題かを解明するために、患者由来原虫の標的分子の遺伝子配列を決定する。また、標準株の配列を強制発現させた遺伝子改変ネズミマラリア原虫を用いて、抗体が伝搬を抑制できるか解析をする。抗体の力価の問題であれば、バキュロウイルスやmRNAなどタンパク質発現系を変えて、抗体を作成する。患者血清のなかで、自然に伝搬阻止効果を獲得したものが、どの原虫タンパク質を認識するのか、候補抗原や私たちが報告した新規のターゲット分子などに対する反応性を調べる。三日熱マラリア原虫生殖体表面に局在するとin silico解析で推定されたものについて、ネズミマラリア原虫に強制発現させて局在解析を行う。新規の生殖体表面タンパク質が見出されたら、抗体を作出し、伝搬阻止効果を評価する。
新型コロナ感染症流行により、海外渡航が制限された関係で、これまでの本プロジェクトの中で流行地に渡航し行う実験に遅れが生じたため。代替案として、ネズミマラリア原虫に三日熱マラリア原虫標的タンパク質を発現させたキメラ原虫を用いた実験系が進行中であり、引き続き、流行地サンプルと並行して研究を進める。さらに、すでに得られた「伝搬阻止効果のある患者血漿」が既知、あるいは私たちが同定した新規標的候補タンパク質を認識するか解析を行う。必要に応じて、マラリア流行期にタイ王国へ訪問し、現地でサンプル収集および伝搬阻止の実験を行う。
すべて 2022 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
Parasitology International
巻: 87 ページ: 102525~102525
10.1016/j.parint.2021.102525
Communications Biology
巻: 5 ページ: -
10.1038/s42003-022-03688-z
https://sites.google.com/view/tmdu-parasitology