研究課題
本研究では遺伝子間のシナジーの包括的理解およびその背後にある分子メカニズムの解明を目指すとともに、この知見を基にした新しいガン治療法の提案につなげることを目標とし、以下の(1)から(3)のサブテーマの研究を推進する。(1)新規遺伝シナジーの抽出の研究では、遺伝子シナジーをあぶり出すケミカルジェネティクス手法のスクリーニングを実施する。(2) 遺伝子シナジーにおける分子メカニズムの包括的理解では、(1)で発見した遺伝子シナジーの分子メカニズムの同定のために、染色体分析やDNA複製のモニタリングや電子顕微鏡を用いた染色体異常の検出を行う。この研究では様々な最先端計測技術を持つイタリアIFOM癌研究所のBranzei Dana教授との共同研究を実施する。(3) 低分子阻害化合物のスクリーニングの研究では、(1)と(2)の研究成果を治療につなげるための、薬品開発に向けたプラットフォーム形成を目指す。ガン治療の際にガン細胞で変異した経路とシナジーの関係にある遺伝子機能(経路)を抑制する必要がある。このために、各種経路の低分子阻害化合物を同定する手法を開発する。この研究では、世界最大の化合物ライブラリーを有する米国NIH研究所のXia Menghang博士と共同研究する。共同研究の目的は、化合物ライブラリーを細胞に暴露して誘導されるDNA損傷を定量的かつハイスループットに評価し、DNA修復因子の低分子阻害化合物の探索をすることである。本研究では、日本、イタリア(IFOM研究所)、米国(NIH研究所)の国際共同研究を強力に推進することで、遺伝子間のシナジーの包括的理解およびその背後にある分子メカニズムの解明と、この知見を基にした新しいガン治療法につなげることと、国際的に活躍できる次世代の研究者を育成することの3点の目的に向け国際共同研究を強力に推進する。
2: おおむね順調に進展している
2020年度はイタリアIFOM研究所に出張し、複製フォークの電子顕微鏡解析を実施する予定であったが、コロナウィルス感染症の蔓延による渡航規制のため、イタリア国際共同研究は一時的に滞っている。同様に、米国NIHにも学生を派遣することは実現できなかった。一方、セミナーやディスカッションをオンラインで開催するなど、オンサイトでの交流が実現できない代替措置を講じることで、交流と国際共同研究を実施した。2020年度の研究交流では、(1)ゲノム編集細胞コレクションを用いたケミカルジェネティクス手法による遺伝子と化学物質間のシナジーの抽出と、(2)DNA損傷マーカーのγH2AXを指標としたイメージング技術を用いた化学物質のスクリーニングシステムの構築、の2点の研究を実施した。(1)は東京都立大で実施し、21種類のヌクレオシドアナログ(薬品)の4種のゲノム編集細胞に対する応答を調査し、4つの化合物において特異的な変異遺伝子との相互作用を見いだすことができた。さらに、4種の化合物に関して、12種の変異体に対して感受性プロファイルを検討した。(2)の研究では良好な成績の高速スクリーニングシステムをNIHにおいて構築でき、このスクリーニングシステムを用いて、ER(エストロゲン受容体)に依存して染色体を断切させる活性を持つ化学物質を3種同定することに成功した。(1)の研究は都立大で実施したが、その研究成果はオンライン会議でNIHおよびIFOM研究所と共有した。(2)の研究は、ロボットを用いた大規模スクリーニングはNIHで実施したが、得られた結果の手作業での確認は都立大において実施した。この研究で同定した、ER(エストロゲン受容体)に依存して染色体を断切させる活性を持つ化学物質および本スクリーニングシステムを紹介する論文を作成中であり、2021年度中に受理されることを目指している。
以下に2021年度における研究内容を箇条書きで記した。(1-1) 新規遺伝シナジーの抽出-1 各代表的DNA損傷応答経路の変異体30種の細胞を選択し、20種のヌクレオシドアナログ薬品に対する感受性を調査する。(1-2) 新規遺伝シナジーの抽出-2 ATRチェックポイント阻害薬品VE821およびChk1チェックポイント阻害薬UCN01に対する感受性プロファイルを調査する。(2) 遺伝子シナジーにおける分子メカニズムの包括的理解 IFOM研究所に分担者の阿部助教が8-9月に40日間留学し、電子顕微鏡や染色体免疫染色(高解像度顕微鏡技術)などの最先端研究技術による、抽出した遺伝子シナジーの分子メカニズムの理解を行う。大学院学生2名をIFOM研究所に派遣し、共同研究を実施する。研究代表者の廣田は9月に3日間滞在し研究打ち合わせを行う。(3) 低分子阻害化合物のスクリーニング NIH研究所のXia博士及び当研究室の卒業生の大岡博士と共同でロボットを用いたハイスループットの薬品スクリーニング実験システムを構築する。研究代表者の廣田がNIHを9月に訪問し講演を行うとともに、共同研究打ち合わせを実施する。上記の(2)および(3) の海外渡航を含む計画においては、コロナウィルス感染症の状況によって、オンサイトでの交流が不可能の場合は2020年度と同様にオンラインでの交流を実施し、国内で分担研究を実施する。
すべて 2020 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 4件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (1件)
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