研究課題/領域番号 |
19KK0210
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
廣田 耕志 東京都立大学, 理学研究科, 教授 (00342840)
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研究分担者 |
津田 雅貴 広島大学, 統合生命科学研究科(理), 助教 (00734104)
阿部 拓也 東京都立大学, 理学研究科, 助教 (50779999)
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研究期間 (年度) |
2019-10-07 – 2024-03-31
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キーワード | ガン / ゲノム不安定化 / DNA損傷 / DNA修復 / ヌクレオシドアナログ |
研究実績の概要 |
ゲノムの不安定化は細胞老化や発ガンに密接に関わっており、「ゲノム維持メカニズム」は集中的な研究が必要とされる分野の一つである。これまでにゲノム安定性に寄与する分子機構・責任遺伝子が多数同定されているが、これらの機能欠損によって発症する先天性ゲノム不安性疾患の罹患率から推定すると、各個人において少なくとも数個の遺伝子にヘテロの劣性変異が存在すると考えられる。この変異遺伝子の組合せ次第では、ゲノム不安定化要素として相乗効果(シナジー)を及ぼすと考えられる。 ゲノム維持に関する基礎研究で、さまざまなシグナル経路や修復因子の間の相互作用が発見され、基礎科学としての重要性と臨床・創薬など社会還元に向けた応用の可能性が認められつつあり、遺伝子-遺伝子間のシナジー効果の知見の重要性が認められつつある。 本研究では新規の遺伝子-遺伝子間のシナジーの包括的抽出とその分子メカニズムの包括的理解を行う。 これまでに、ヌクレオシドアナログ4種の30種類の遺伝子とのシナジーを検討し、構造がよく似た化学物質であっても細胞効果は全く異なり細胞への曝露実験をしない限りその毒性は不明であることを見出した。さらに、抗がん剤として使用されるTMZと呼ばれるアルキル化薬品やPARP阻害低分子治療薬品のXRCC1との遺伝子シナジーを発見した。 東京都立大では、変異体細胞をヒトTK6細胞やニワトリDT40細胞から系統的に作成しており、主にゲノム複製・修復・分配など維持メカニズムに関わる遺伝子を中心にゲノム編集による遺伝子ノックアウトをしており、世界最大のライブラリーを有する。化学物質スクリーニングでは米国NIH研究所のXia教授と、複製中間体の電子顕微鏡観察実験ではイタリアIFOM研究所のBranzei教授と、PARP1阻害薬品の研究では英国サセックス大学のCaldecott教授と共同研究を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これでまでに実施した研究の研究内容を以下に箇条書きで記した。 (1) 新規遺伝シナジーの抽出-1 各代表的DNA損傷応答経路の変異体30種の細胞を選択し、ヌクレオシドアナログ薬品に対する感受性を調査した。その結果、構造がよく似たヌクレオシドアナログでも、細胞効果は全く異なり細胞への曝露実験をしない限り化学構造式からは細胞効果を予測することが困難であることがわかった。 (2) 遺伝子シナジーにおける分子メカニズムの包括的理解 IFOM研究所に分担者の阿部助教が短期留学し、電子顕微鏡を用いた複製中間体をニワトリDT40細胞で検出するための条件検討を実施したが、この細胞はヒト細胞と同様の条件を外挿することが容易ではなく、さらなる検討が必要であることがわかった。研究代表者の廣田は2019年の9月に3日間滞在し研究打ち合わせを行ったが、コロナウィルスの感染拡大によりその後訪問ができていない状況である。 (3) 低分子阻害化合物のスクリーニング NIH研究所のXia博士及びOoka博士と共同でロボットを用いたハイスループットの薬品スクリーニング実験システムを構築した。この解析システムを用いて、ホルモン受容体を介したDNA損傷誘導性化合物の検出に成功した(論文作成中)。 (4) XRCC1の新規機能の発見 XRCC1変異細胞がDNAメチル化薬品のTMZに超感受性を示し、この超感受性がPARP1遺伝子破壊で正常化することを発見した。このことから、DNA修復時に発生するPARP1-DNA中間体の除去にXRCC1が寄与することを発見できた。この研究では、英国サセックス大学のCaldecott教授と共同研究を実施し、MolCellに論文発表するするとともに、プレスリリースを行った。国際共同研究のコロナ禍に伴う遅延と、国内での遺伝子シナジー同定に向けた研究の大幅な進展をあわせ、「概ね順調」と評価している
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今後の研究の推進方策 |
共同研究の進捗から、ヌクレオシドアナログの包括的細胞効果の検討が中途の状態であるとともに、その細胞効果を分子レベルで検討するための電子顕微鏡を用いた解析システムの開発が遅れている。2022年度はこれらの研究の推進に中心的に注力する。また、DNA損傷応答チェックポイントとDNA修復機構の間の遺伝子シナジーについても解析が遅れており今後の課題である。今年度以降に実施する研究項目を以下に記載する。 (1-1) 新規遺伝シナジーの抽出-1 これまでの継続研究として、各代表的DNA損傷応答経路の変異体30種の細胞を選択し、20種のヌクレオシドアナログ薬品に対する感受性を調査する。(1-2) 新規遺伝シナジーの抽出-2 ATRチェックポイント阻害薬品VE821およびChk1チェックポイント阻害薬UCN01に対する感受性プロファイルを調査する。 (2) 遺伝子シナジーにおける分子メカニズムの包括的理解 IFOM研究所に分担者の阿部助教が8-9月に40日間留学し、電子顕微鏡や染色体免疫染色(高解像度顕微鏡技術)などの最先端研究技術による、抽出した遺伝子シナジーの分子メカニズムの理解を行う。大学院学生2名をIFOM研究所に派遣し、共同研究を実施する。研究代表者の廣田は9月に3日間滞在し研究打ち合わせを行う。また、廣田は2023年度中にサバティカルを取得し、IFOM研究所とレスター大学に半年間滞在し、共同研究を推進する予定である。 (3) 低分子阻害化合物のスクリーニング NIH研究所のXia博士及び当研究室の卒業生の大岡博士と共同でロボットを用いたハイスループットの薬品スクリーニング実験システムを構築する。 上記の(2)の海外渡航を含む計画においては、コロナウィルス感染症の状況によって、オンサイトでの交流が不可能の場合は2021年度までと同様にオンラインでの交流を実施し、国内で分担研究を実施する。
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