研究課題
昨年度までの研究に引き続き、孵化直後の雛を対象とする国際共同研究を実施した。刷り込みに伴い生物的運動(biological motion, BM)への視覚的選好性が誘導されるという我々の先行研究に基づき、発生後期の胚に投与した薬物の影響を孵化後の雛で評価した。抗癲癇薬であるvalproic acid(VPA)の催奇毒性の検討に加え、ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)伝達を阻害する一連の薬剤を検討した。その結果、前者VPAが刷り込み記憶形成の障害を引き起こすのに対し、後者(ツボクラリン、α7受容体阻害剤、ネオニコチノイド殺虫剤)がBM選好性の発達を障害することを見出した。すなわち、記憶形成と視知覚発達は薬理学的に二重分離できる。これら認知発達の障害の神経基盤として神経発達に伴う興奮抑制バランスの未成熟を原因とする仮説が提唱されている。実際、我々もVPA処理によってNeuN陽性細胞の比率が低下することを見出した。さらに、細胞内塩素イオン濃度を決定するトランスポーター(NKCC1/KCC2の遺伝子発現)が、胚発生後期から孵化後にかけて、大脳および中脳において急速な成熟を示すことを認めた。そこで、NKCC1の選択的阻害剤であるbumetanideに着目し、孵化後の刷り込みに先立ってこれを投与(静注)し、刷り込みに対する影響を吟味した。その結果VPAによる記憶形成障害も、nAChR伝達阻害によるBM選好性の障害も、共に軽減されることを見出した。bumetanideは自閉症スペクトラム障害(ASD)の薬物治療の候補として注目されているが、第二相治験の結果は肯定的ではない。bumetanideの作用部位を特定するため、PCR法に依る遺伝子発現の検討と、ホールセル細胞内記録による解析を進めるため、脳標本のサンプリングと神経生理学実験装置の整備を行った。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 2件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
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