研究課題
本国際共同研究では、single cell RNA-seqの先端解析技術を軸とした複数の先端技術を統合し、現在、米国MD Anderson Cancer Centerにおいて急性骨髄性白血病(AML)症例を対象として臨床試験が行われている「抗アポトーシス因子BCL-2とDNAメチル基転移酵素の同時阻害」治療前後の白血病細胞の精密なプロファイリングを実施し、これによって治療効果を予測・評価するバイオマーカーを特定することを目標とする。選択的BCL-2阻害剤であるVenetoclaxとDNAメチル基転移酵素(DNMT)阻害剤Decitabineの併用治療効果は、初発(ND)AML患者で高い有効性を示し、再発/難治性(R/R)AMLでは奏効率が低くなるが、その要因はあきらかではない。当該年度の研究では、同臨床研究を目的として採取された治療後再発患者の治療前後のサンプルを用いてRNA-seq解析とmethylation assayを実施して、DNAメチル基転移酵素阻害剤の標的遺伝子の解析を進めた。特にエピジェネティックな経路を介したインターフェロン応答の誘導に注目してインターフェロン誘導遺伝子(ISG)に焦点を当て、ISGのRNA発現とプロモーターおよびエンハンサー領域のCpG部位のメチル化レベルについて解析した。その結果、ND AMLでは、治療抵抗性群でアミノ酸代謝や細胞移動/接着に関連する遺伝子の発現が亢進し、R/R AMLでは、治療抵抗性群でISG発現が有意に低下していた。また、長期寛解達成群と再発/治療不応群の治療前の遺伝子発現においてISG発現レベルとこれに随伴するDNAメチル化レベルに特徴的な相違があることがわかった。これらの知見は、治療後の腫瘍細胞の生存に免疫応答を含む微小環境との相互作用がエピジェネティックな修飾とともに関与していることを示唆するものと考えられた。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、「抗アポトーシス因子BCL-2とDNAメチル基転移酵素DNMTの同時阻害」臨床研究において採取された治療前後の患者サンプルを用いてRNA-seq解析とメチル化アレイ解析を実施した。新型コロナウイルス感染症の世界的流行によって、昨年度に引き続き、今年度も研究者の物理的な交流を自粛している状況である。しかしながら、検体の授受を進め、米国で実施予定であったRNA-seq解析、メチル化アレイ解析の一部を日本において先行実施するなどの代替措置により、研究を進めている。RNA-seq解析とメチル化アレイ解析結果について、インターフェロン誘導遺伝子(ISG)を中心に統合的解析を行った。その結果、ND AMLではアミノ酸代謝関連遺伝子と細胞遊走・接着関連遺伝子を含む4つのISGが治療抵抗性群で有意に発現が亢進し、R/R AMLでは免疫応答に関連する7つのISGが治療抵抗性群で有意に低下していた。さらに選択的BCL-2阻害剤であるVenetoclaxとDNAメチル基転移酵素(DNMT)阻害剤Decitabineの併用治療前後の遺伝子発現とプロモーター、エンハンサー領域のメチル化の変化を統合的に解析した結果、複数の遺伝子がND, R/Rにかかわらず治療後で発現亢進することが分かった。本年度の研究成果としては、ND AMLでは、AML細胞のエネルギー代謝亢進状態と微小環境との相互作用が治療耐性に関与する一方。 R/R AMLでは、細胞が有する免疫抑制状態が耐性に関与している可能性が示された。
今後の研究では、初発未治療群と治療不応性・再発群それぞれについて、非再発例の治療前検体、再発例の治療前、再発後検体においてRNA-seq、メチル化アレイ解析、single-cell RNA-seqを平行して実施し、統合的に解析を進める。特に、本年度の研究によってインターフェロン誘導遺伝子(ISG)が選択的BCL-2阻害剤であるVenetoclaxとDNAメチル基転移酵素(DNMT)阻害剤Decitabineの併用治療の効果に関与している可能性があることが明らかになったことと、近年、DNAメチル化阻害によって白血病細胞の遺伝子に組み込まれている内在性レトロウイルス(ERV)由来RNAの再活性化が骨髄微小環境における免疫系の活性化を誘導するという現象が報告されていることから、今後、ISGとERVに注目して詳細な統合的解析を進める。
本年度に実施を予定していたsingle cell RNA-seqが世界的な新型コロナウイルス流行の影響で研究者の物理的な交流自粛により一部実施不可能であった。そのため、メチル化アレイ解析を日本において先行実施した。これによって予算の変更が生じた。今後、検体の授受を進め、米国で実施予定であったRNA-seq解析、single cell RNA-seq解析を日本においても一部先行実施する代替措置をとることにより、研究を推進する。
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Blood Adv
巻: 5 ページ: 4233-4255
10.1182/bloodadvances.2020003661
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