研究課題/領域番号 |
19KK0234
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研究機関 | 松本歯科大学 |
研究代表者 |
中道 裕子 松本歯科大学, 総合歯科医学研究所, 講師 (20350829)
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研究分担者 |
宇田川 信之 松本歯科大学, 歯学部, 教授 (70245801)
荒井 敦 松本歯科大学, 歯学部, 准教授 (00532772) [辞退]
堀部 寛治 松本歯科大学, 歯学部, 助教 (70733509)
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研究期間 (年度) |
2019-10-07 – 2023-03-31
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キーワード | 高感度レポーターシステム / プロテオゲノミクス / Wnt / 骨芽細胞 |
研究実績の概要 |
どのWntシグナル分子が骨形成に重要か不明な点が多い。海外共同研究者Michael Ben Major博士は癌細胞およびモデル動物を用いて、質量分析中心のプロテオミクス、機能的ゲノミクスおよび疾患情報に基づく発見主体の科学を続け、Wntシグナル分子の同定に成功してきた。本研究は、ゲノム編集技術を用いた遺伝子発現活性化(Crispr-A, Aは活性化activationの意味)または遺伝子発現ノックアウト(Crispr-KO)ライブラリーにより、活性化またはノックアウトされた遺伝子機能を、Wntシグナル活性依存性の薬剤感受性レポーターシステムで評価することで、骨形成制御因子を同定することを、目的とする。そのために、Wnt活性の上昇に応じて赤色蛍光色素の発光とともにゼオシン耐性を獲得するシステムと、Wnt活性の上昇に応じて緑色蛍光色素の発光とともにジフテリア毒素感受性を獲得するシステム の2種類を作製した。前者はBAR (beta-catenin activatedreporter)-RedZeo、後者をBAR-DTR-GFPと命名した。両システムを導入するためのレンチウイルスベクターを作製し次いで、レンチウイルスベクターを導入したモノクローナル未分化間葉系細胞株ST2細胞とHEK293細胞を樹立し、各クローンの性能を解析した。また、Wnt3a処理したST2細胞をリン酸化タンパク質量分析に供し、タンパク質リン酸化の変化を解析した。5つのBiological replicateにおいて共通にリン酸化が上昇したペプチドを同定した。そして、骨髄間葉細胞の骨芽細胞分化および脂肪細胞分化過程の双方において、これらのリン酸化ペプチドのmRNA発現変化を解析した。今後は、リン酸化部位変異タンパクを未分化間葉系細胞に過剰発現させることで、同定したリン酸化の生物学的意義を解明する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Wnt活性の上昇に応じて赤色蛍光とともにゼオシン耐性を獲得するBAR-RedZeoレポーターとCrispr-AまたはKOシステムを組み合わせることで、Wntシグナル促進または抑制因子、すなわち骨形成促進または抑制因子を単離することが出来る。BAR-RedZeoレポーター発現HEK293モノクローナル細胞を作製したところ、Zeocinアナログの存在下においてWnt3aは、Zeocin アナログ誘導性の細胞死から細胞をレスキューすることが出来た。また、BAR-RedZeoレポーター発現ST2細胞は、、Wnt処理72時間で6000倍の赤色蛍光シグナルを発した。したがって、Crispr-AおよびKOシステムによるWntシグナルの正または負の調節因子のスクリーニング系を確立出来た。また、Wnt活性の上昇に応じて緑色蛍光とともにジフテリアトキシン感受性を獲得し細胞死を誘導するシステムBAR-DTRGFPレポーターとCrispr-AまたはKOシステムを組み合わせることで、骨形成抑制または促進因子を単離することが出来る。BAR-DTRGFPレポーター発現ST2モノクローナル細胞を作製したところ、ジフテリアトキシン存在下でWnt3aは濃度依存的に細胞死を誘導した。しかし、Covid-19の世界的流行のため、代表者または分担研究者が海外共同研究先で実験を実施することがかなわず、NGS解析が出来ないままでいる。また、Wntシグナルによるタンパク質リン酸化の変化を、Wnt3a処理したマウス骨髄間葉細胞ST2細胞を用いて、リン酸化質量分析法で調べた。5つのBiological replicateにおいて共通にシグナル強度が上昇するリン酸化ペプチドを得ることが出来た。そして骨髄間葉細胞の骨芽細胞分化および脂肪細胞分化過程において、これらのリン酸化ペプチド遺伝子のmRNA発現変化を解析した。
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今後の研究の推進方策 |
海外共同研究先において、構築したスクリーニング系で生き残った細胞のNGS解析をすすめる。また、Wnt3a以外の骨形成促進に関わるWntリガンドおよびWnt antagonistの相互作用が明らかになってきた。また、成長期および大人の骨の恒常性には、Wnt3a以外のWntリガンドが重要であることが示唆されるデータを得た。今年度は、Wnt3a以外のWntリガンドを骨形成促進因子として用い、昨年度確立した系を用いて、同様のスクリーニングを行い、成長期および大人の骨形成に重要な因子を同定する予定である。また、今回同定されたWntシグナル依存的なリン酸化ペプチドにおけるリン酸化の意義を、リン酸化部位変異タンパクをST2細胞などの未分化間葉系細胞に過剰発現させることで解明する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本来は、代表者および分担者がセントルイス・ワシントン大学に3か月間滞在し、質量分析およびスクリーニングによる生存細胞のNGS解析を行う予定であった。しかし、米国内および日本国内のCovid-19流行のため渡米出来ず、渡航費、滞在費の支出がなかったため、次年度使用額が生じた。次年度使用額は、NGS解析費用および渡航費、滞在費に使用する予定である。
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