研究課題
どのWntシグナル分子が骨形成に重要か不明な点が多い。そこで2021年度は、質量分析中心のプロテオミクス、機能的ゲノミクスおよび疾患情報に基づき、Wntシグナル分子の同定を試みてきた。本研究は、ゲノム編集技術を用いた遺伝子発現活性化(Crispr-A, Aは活性化activationの意味)または遺伝子発現ノックアウト(Crispr-KO)ライブラリーにより、活性化またはノックアウトされた遺伝子機能を、Wntシグナル活性依存性の薬剤感受性レポーターシステムで評価することで、骨形成制御因子を同定を行った。そのために、Wnt活性の上昇に応じて赤色蛍光色素の発光とともにゼオシン耐性を獲得するシステムと、Wnt活性の上昇に応じて緑色蛍光色素の発光とともにジフテリア毒素感受性を獲得するシステム の2種類を作製した。前者はBAR (beta-catenin activatedreporter)-RedZeo、後者をBAR-DTR-GFPと命名した。両システムを導入するためのレンチウイルスベクターを作製し次いで、レンチウイルスベクターを導入したモノクローナル未分化間葉系細胞株ST2細胞とHEK293細胞を樹立し、優良なクローンの単離に成功した。また、Wnt3a処理したST2細胞をリン酸化タンパク質量分析に供し、タンパク質リン酸化の変化を解析した。5つのBiological replicateにおいて共通にTGFbetaファミリーとして知られるペプチドのリン酸化上昇を見出した。そして、骨髄間葉細胞の骨芽細胞分化および脂肪細胞分化過程の双方において、これらのリン酸化ペプチドのmRNA発現変化を解析した。今後は、リン酸化部位変異タンパクを未分化間葉系細胞に過剰発現させることで、同定したリン酸化の生物学的意義を解明する予定である。
3: やや遅れている
古典的Wntシグナル経路の上昇に応じて赤色蛍光とゼオシン耐性を獲得するBAR-RedZeoレポーターとCrispr-AまたはKOシステムを組み合わせることで、Wntシグナル促進または抑制因子、すなわち骨形成促進または抑制因子を単離することが出来る。BAR-RedZeoレポーター発現HEK293モノクローナル細胞を作製したところ、Zeocinアナログの存在下においてWnt3aは、Zeocin アナログ誘導性の細胞死から細胞をレスキューすることが出来、優良クローンの取得に成功した。Crispr-AおよびKOシステムによるWntシグナルの正と負の調節因子のスクリーニング系を確立出来た。また、Wnt活性の上昇に応じて緑色蛍光とともにジフテリアトキシン感受性を獲得し細胞死を誘導するシステムBAR-DTRGFPレポーターとCrispr-AまたはKOシステムを組み合わせることで、骨形成抑制または促進因子を単離することが出来る。BAR-DTRGFPレポーター発現ST2モノクローナル細胞を作製したところ、ジフテリアトキシン存在下でWnt3aは濃度依存的に細胞死を誘導し優良クローンの取得にも成功した。しかし、Covid-19の度重なる世界的流行のため、代表者または分担研究者が海外共同研究先で実験を実施することがかなわず、昨年度に引き続きNGS解析が出来ないままでいる。また、Wntシグナルによるタンパク質リン酸化の変化を、リン酸化質量分析法で調べた。5つのBiological replicateにおいて共通にTGFbetaファミリーとして知られるペプチドのリン酸化上昇を見出した。。そして骨髄間葉細胞の骨芽細胞分化および脂肪細胞分化過程において、リン酸化調節を受けるTGFbetaファミリー分子のmRNA発現変化を解析することに焦点を置いた。
海外共同研究先において、構築したスクリーニング系で生き残った細胞のNGS解析をすすめる。最近になって、Wnt3a以外の骨形成促進に関わるWntリガンドと分泌性Wnt antagonistの相互作用が構造化学的に明らかになってきた。我々は、成長期および大人の骨の恒常性には、Wnt3a以外のWntリガンドが重要であることを示唆するデータを得た。今年度は、Wnt3a以外のWntリガンドを骨形成促進因子として用い、昨年度確立した系を用いて、同様のスクリーニングを行い、成長期および大人の骨形成に重要な因子を同定する予定である。また、今回同定されたWntシグナル依存的なTGFbetaファミリー分子のリン酸化の意義を、リン酸化部位変異タンパクをST2細胞などの未分化間葉系細胞に過剰発現させることで解明する予定である。また、WntとこのTGFbetaファミリー分子の関係がカルシウム代謝における病態制御シグナルとして関与しているか検証する予定である。
Covid-19の世界的蔓延のため、共同研究先大学の客員研究員受け入れ方針、Visa発行のポリシーや米国国境コントロールの方針変更がたびたびあった。そのため、共同研究先に渡航し実験を行う機会を逸してしまったため、次年度使用額が生じた。次年度においては、共同研究先のセントルイス・ワシントン大学医学部のMajor研究室に滞在し、Major研究室における研究実施のための物品費および旅費に使用する予定である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件)
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