研究課題
コウモリはSARS-CoV-2やエボラウイルス、ニパウイルスなど様々な重要病原体の自然宿主と考えられている。また、コウモリを介した細菌や寄生虫の拡散リスクはほとんど明らかになっていない。本研究では、コウモリ由来感染症のリスクを明らかにすることを目的としてフィリピン国内に生息するコウモリを対象としたウイルス・細菌・寄生虫の網羅的な疫学調査とコウモリの生態情報を融合しリスク分析を行う。令和2年度は、令和元年度にフィリピンで実施した捕獲・収集したコウモリ120匹のサンプルの解析を進めた。寄生虫を対象とした疫学解析では、コウモリ小腸由来DNAサンプルを対象としたCryptosporidium属の18SrRNA及びGP60遺伝子を標的としたnested PCRとシーケンス解析による検出・同定を行った結果、44匹のコウモリからCryptosporidiumの遺伝子が検出された。病理学的解析では、C. brachyotis1頭の左翼背面の飛膜に認められた結節の電子顕微鏡観察においてポックスウイルスのウイルス粒子を確認し、アジア圏及び本種でのポックスウイルス感染症を始めて確認した。一方、コウモリ腸管スワブを対象とした16SrDNA領域を対象とした網羅的細菌叢解析では、病原性微生物は検出されなかった。リスク分析については2019年から2020年にかけて捕獲されたコウモリの個体情報と、それらのコウモリが保有する病原体情報をもとにデータベースを作成した。このうちCryptosporidium属を対象に、病原体遺伝子検出の有無を目的変数に、外部寄生虫の寄生の有無、捕獲地、宿主コウモリの分類、食性、性別などの個体因子を説明変数としたロジスティック回帰分析を実施した結果、捕獲地により優位な差が認められた。次年度は、得られた結果を基にさらに詳細な解析を進める予定である。
3: やや遅れている
COVID-19の影響により、フィリピンで実施予定であった日本側研究者が参加したコウモリ疫学調査の実施が延期しているが、定点疫学調査をフィリピン国内の情勢をみながらアルベオラ准教授を中心としたフィリピンチームが実施しており、今後は定点調査で収集したサンプルを中心に解析を実施する予定である。状況が変化し、渡航が可能となった場合には日本チームも参加した疫学調査を実施する予定である。
これまでに収集したコウモリサンプルから検出された病原体に関する詳細な解析を行うと共に、データベースの情報を充実させて更なる疫学分析を進める。また、現地疫学調査については継続して実施する。収集したサンプルを対象に、ウイルス、細菌、及び寄生虫を対象としたゲノム又は抗体保有状況を明らかにすると共に、データベースの充実を進め、コウモリ由来感染症のリスク分析を進める。また、コウモリに病原性を示す病原体の検索も病理学的手法を中心とした解析を進める。COVID-19の影響で渡航が難しい場合には、フィリピン側共同研究者であるJ.S. Masangkay教授らのチームによる調査により得られたサンプルを中心に解析を進める予定である。
COVID-19発生の影響により、計画していたフィリピンでの疫学調査が実施できなかったことから次年度使用額が発生した。
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (1件)
Acta Histochemica
巻: 122 ページ: 151515~151515
10.1016/j.acthis.2020.151515