肥満や動脈硬化、自己免疫疾患など、種々の慢性疾患に共通の基盤病態として「慢性炎症」が注目されているが、その分子機構は未だ十分に理解されておらず、特に免疫細胞内の栄養代謝異常の関与は明らかにされていない。研究代表者はこれまでに、抗原提示細胞内の脂質蓄積が炎症、ひいては全身の自己免疫疾患を惹起することを明らかにし、病態の進展過程における免疫細胞内のダイナミックな脂質の質的・量的変化「脂質リプログラミング」の関与の可能性を示唆した。 本年度は、自己免疫疾患モデルマウスの免疫細胞において発現変動する脂質代謝酵素の欠損マウスを用いて病態への影響を解析した。本脂質代謝酵素の欠損マウスでは、自己免疫疾患病態が発症しにくいことを見出し、さらにその代謝物の経口投与によって、病態が発症することを明らかにした。また、研究期間全体において、自己免疫疾患モデルマウスにおける多価不飽和脂肪酸の経口摂取が、炎症や、B細胞から抗体産生細胞への分化を抑制し、病態を改善することを明らかにした。また、病態における免疫細胞内の脂質および遺伝子発現の網羅的解析を行うことにより、病態の発症・進展に関与する脂質とその制御酵素を複数同定することができた。本研究の成果により、細胞内脂質代謝という、従来にない切り口で慢性炎症性疾患のメカニズムの一端が解明された。
|