研究課題/領域番号 |
19KK0260
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
鈴木 麗璽 名古屋大学, 情報学研究科, 准教授 (20362296)
|
研究分担者 |
松林 志保 大阪大学, 大学院基礎工学研究科, 特任准教授(常勤) (60804804)
藤田 素子 京都大学, 東南アジア地域研究研究所, 連携研究員 (50456828) [辞退]
小島 諒介 京都大学, 医学研究科, 講師 (70807651)
中臺 一博 東京工業大学, 工学院, 教授 (70436715)
|
研究期間 (年度) |
2019-10-07 – 2024-03-31
|
キーワード | ロボット聴覚 / 鳥類の鳴き声 / マイクロホンアレイ / 行動生態観測 / 生態音響学 |
研究実績の概要 |
本課題は,マイクアレイを用いて音を聞き分けるロボット聴覚技術を活用して,「個体・集団・音風景」という時間・空間スケールの異なる鳥類生態の観測に革新的な貢献をもたらすことを目的とする. 本年度は,新型コロナウイルスの影響が収束傾向となり,米国カリフォルニア州のUC Berkeleyの自然保護区であるBlue Oak Ranch Reserveにおいて,共同研究者とともに現地調査が可能となった.前年度において遠隔共同調査として実施したホシワキアカトウヒチョウの鳴き声録音を発展させ,複数の個体に対する鳴き声再生音の影響を調査した.その結果,再生音と個体との関係(なわばり内外,自身の録音か否か)によって,再生音に対する空間上の移動の傾向が大きく異なることを定量的に観測することができた.その際,音源定位・分離・アノテーションソフトであるHARKBirdをより簡便なアノテーションと複数マイクを利用した2次元音源定位機能を盛り込み活用した.その他の当初予定した調査地に関しては,コロナ禍による情勢変化(研究者の異動)等を踏まえた調査の可能性を検討したものの,先方との調整の難しさ(機材操作の経験等)から難航した.一方,従来から研究交流のあるカナダの生物音響学研究者に遠隔での現地録音調査の協力を得ることができた. 上記のような状況を踏まえ,マイクロホンアレイに基づく様々な場面での観測技術の活用を念頭に置いて,国内での技術開発・調査を継続した,絶滅の危険のある種の生息状況や移動パターンの観測(ヒクイナ,サンカノゴイ),森林の音風景を構成するセミと鳥類の音響相互作用の長時間の可視化と定量化手法の開発検討,屋外16チャネルマイクアレイに関する森林での実践的なスピーカテストや人・環境・生物音声の観点からの長期サウンドスケープダイナミクスの定量的観測,リアルタイム音環境分析デバイスの開発検討等を行った.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症の影響による渡航制限の緩和を受けて,従来から継続的に共同研究を進めてきたUC Berkeleyの調査地において,現地共同調査が進められたことは大きな進展であった.具体的には,ホシワキアカトウヒチョウに関して複数個体での短期・長期の詳細な相互作用過程の録音を取得可能であることがわかった.分析手法に関しても,渡航の制約があった中で従来から進めていた短時間の個体間相互作用に加え,半日・一日やより長期な観測に向けた技術に関して着実な進展があった.これらは国内の絶滅危惧種の観測への発展や,鳥類と昆虫の音響的相互作用観測への発展など,生物にかかわる幅広い音風景を様々なスケールで観測できたことに結び付いている.一方で,取得できた録音データはまだ限定的であり,データと技術を相互し有益な知見に結び付けるには継続した調査の必要性も明らかとなった.今後の海外調査調査・研究協力が可能な体制を見極めつつ柔軟な対応が必要な状況にある.
|
今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス感染症の影響による海外渡航に基づく調査の遅延等を受けて,1年の研究期間の延長を申請しており,見直しを図り可能となった現地海外調査に基づく観測分析を推し進めるのが第一である.特に,今年度の知見を踏まえ,プレイバック実験等を活用して効率的に手法の評価と生態的知見の分析が可能な方法を検討する.同時に,屋外設置型16チャネルマイクアレイによる長期観測や,観測データの整理,識別・定位,教師なし分類手法の活用等を進める.録音データの分析・管理を容易にするための音源定位・分離・分析システムの更新も進める.生態学者にとって使いやすいシステムに発展させ,国内希少種や多種の音風景分析等を推し進める.海外共同研究者との情報交換・交流なども引き続き進め,関連技術の情報収集に努める.これらを統合し,様々な時間・空間スケールにおける鳥類行動の音源定位技術に基づく活用手法の実践的な知見として全体をまとめ上げる.
|
次年度使用額が生じた理由 |
1年の研究期間延長を申請したため次年度使用額が生じた.具体的には,延長期間中における海外観測調査や研究発表等のための使用を計画している.
|