研究課題
本研究では南米チリの大気における病原性微生物に着目し,その地域性,経時的な種や量等の動態の把握,大気汚染物質との関連,また大気汚染物質による微生物保護作用の把握を目指している。2020年度は,大気微生物と大気汚染の関連などについて,大気試料のサンプリングを実施できなかった。また,前年度に培養法で単離した微生物のゲノム解析や大気汚染物質が持つ微生物への保護作用を検証するために,菌株を日本に移動させる素材移転契約(Material Transfer Agreement: MTA)の締結を進めた。一方,大気中の細菌群集とそれに影響する要因について詳しくまとめた総説論文を,ラ・フロンテラ大学(テムコ)の研究者らと共著で発表した (Ruiz-Gil et al., Environ. Int., 2020)。さらに,日本の都市域(横浜市)と地方都市郊外(富山市)において,アンダーセンエアーサンプラーで9段階の粒径別捕集(分級範囲 0.43~11.0μm)した各大気試料を,高速シークエンサーでメタゲノム解析した結果を,原著論文として発表した (Tanaka et al., Sci. Rep., 2020, プレスリリース有り)。本論文は,屋外大気における細菌の群集構造(細菌叢),多様性,粒径に関する特性と,ヒトの健康への潜在的な影響を評価する基盤となることが期待された。
4: 遅れている
2020年度は,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより国内外の移動が制限されたことが影響し,国内研究者5名全員がチリに渡航できなかった。従って,ラ・フロンテラ大学(テムコ),ロスラゴス大学(オソルノ),およびマガジャネス大学(プンタアレーナス)の研究者とは,予定していたサンプリングや会合も実施できない状況が続いていた。しかしながら,ラ・フロンテラ大学の研究者らとは,上述のように共著の総説論文を発表するとともに,チリの助成金へ一緒に応募するなど,時々連絡を取り合って交流を深めた。
今後,大気試料のサンプリングが可能になれば,高速シークエンサーを用いたメタゲノム解析を進める。菌株を日本に移動させることが可能になったら,ゲノム解析や大気汚染物質が持つ微生物への保護作用を検証する予定である。また,チリ側研究者とは,メールやオンラインでの研究打ち合わせを通じて,研究を進められればと考えている。研究期間を1年延長することも必要になってくるだろうと考えている。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより,国内外の移動が制限され,サンプリングや会合が実施できなかったため。また,菌株を日本に移動させるMTAの締結にも時間が掛かっている。次年度は,海外渡航が可能になれば,チリにてサンプリングや会合が実施できればと考えている。海外渡航が難しい場合は,ラ・フロンテラ大学の研究者にサンプリングして頂き,日本に送付して頂いた後に,解析を進める予定である。現在,研究期間を1年延長して使用することも考えている。
すべて 2020 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 備考 (1件)
Environment international
巻: 145 ページ: 106156
10.1016/j.envint.2020.106156
Scientific reports
巻: 10 ページ: 12406
10.1038/s41598-020-68933-z
https://www.u-toyama.ac.jp/outline/publicity/pdf/2020/20200727.pdf