研究課題/領域番号 |
19KK0264
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
勝田 長貴 岐阜大学, 教育学部, 准教授 (70377985)
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研究分担者 |
志知 幸治 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (10353715)
中川 麻悠子 東京工業大学, 地球生命研究所, 特任助教 (20647664)
長谷川 精 高知大学, 教育研究部自然科学系理工学部門, 講師 (80551605)
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研究期間 (年度) |
2019-10-07 – 2023-03-31
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キーワード | 湖沼堆積物 / 永久凍土 / モンゴル / 最終氷期 |
研究実績の概要 |
近年の地球温暖化は、中緯度から高緯度域に分布する永久凍土の融解と、それに伴う陸域の環境や生態系の改変を引き起こすことが懸念されている。しかし、気候モデル実験の結果は不確定性が大きく、その検証に使用できる主要な観測データは、植生が乏しく人口密度の低いアラスカや北西カナダの北極圏のツンドラ地域に限定される。応募者らはこれまでに、シベリア永久凍土南端のタイガ~森林ステップが分布するモンゴル北西部やシベリア南東部の湖沼堆積物を対象とし、それらの古環境変動解析からユーラシア大陸中緯度の環境は永久凍土の影響を強く受けてきたことを明らかにしてきた。現在のモンゴル国はシベリア永久凍土の南限に位置しており、北部が連続永久凍土地帯、南部に永久凍土の生じないゴビ砂漠が広がるが、最終氷期には連続永久凍土地帯はゴビ砂漠まで南下していたことが地形学的証拠から報告されている。さらには、モンゴル国では永久凍土の分布と植生帯は強い対応関係にあり、連続永久凍土地帯にタイガ~森林ステップ、不連続~点在的永久凍土地帯に森林ステップ~ステップが発達する。そこで本研究課題は、モンゴル国の湖沼堆積物を対象とし、応募者が見出した最新の永久凍土融解指標の分析から、最終氷期の永久凍土変動の復元と、それに伴う陸域環境と生態系への影響を評価することを目的としている。本年度は既に確保済みのモンゴル北部と南部の湖沼堆積物コアの分析試料準備(分取と前処理)と一部試料の分析を進め、最終氷期における永久凍土の動態は北部と南部で異なる予察的結果を得た。これと並行して、次年度以降の研究計画推進に資する研究材料を確保するために、現地の共同研究者の協力を得て、新規コア掘削の候補地の湖沼調査と堆積物コアの採取を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、既に採取済みのモンゴル湖沼堆積物コアの分析を中心に進めた。新規掘削し輸入が完了したサンギンダライ湖堆積物コア(全長約13 m)については、各種方法による分取、岩相記載及びμ-XRFコアスキャナーによる元素分析を終了させ、過去4~5万年間の堆積記録を有している予察的結果を得た。モンゴル南部のオログ湖湖底堆積物コア(全長約24 m)については、元素分析と安定同位体比分析用に2 cm間隔で分取し、凍結乾燥と含水率測定、約50 cm間隔ごとの放射線炭素測定用試料準備を行った。 この他に、過去12万年間の堆積記録を有するダラハド盆地(モンゴル北西部)の湖成層コアの元素と安定同位体比分析を通じて、2~3万年前に永久凍土融解を示す硫黄濃集層と硫黄同位体比(~20‰)の正異常が認められた。これは、隣接するフブスグル湖の湖底堆積物で報告した最終退氷期でも確認されたシベリア永久凍土の融解によるもとの見なすことができる。その一方で、ダラハド盆地湖成層で確認されたMIS 5~3における硫黄濃集層では、硫黄同位体比が5~10‰であった。同様の結果は、テルヒンツァーガン湖湖底堆積物における3000~4000年前の層準でも認められた。これにより、永久凍土地帯の湖沼堆積物で認められる硫黄濃集層と5~10‰の硫黄同位体比が、永久凍土融解に起因するものかどうかを、他の指標と合わせて検討することが今後の課題となった。 これらのコア分析と並行して、新規コア掘削候補地として、モンゴル東部のブルイ湖調査が現地の共同研究者によって行われ、水質調査と1 mほどのグラビティコアが確保された。水質調査の結果から、pHが8.4であり湖水中で炭酸塩が自生する塩湖であると推察される。また、これと整合する結果として、堆積物コアの堆積層は、炭酸塩を主体とする土壌を成すことを示す褐色に呈していることを確認している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、モンゴル南部・オログ湖と北部・サンギンダライ湖で掘削した湖底堆積物の分析を通じて、最終氷期の永久凍土変動の復元を進める。前年度に準備した試料をもとに、土壌中の全有機炭素の放射性炭素年代測定を実施し、両湖の堆積物コアの年代軸を確立する。放射性炭素年代測定は、共同研究契約を結んでいる東濃地科学センターのガラスラインとペレトロン年代測定装置を用いて行われる。オログ湖の湖底堆積物コアを用いた研究については、CNSコーダーによる硫黄・窒素・炭素含有量分析と、CN-IRMS及びS-IRMSによる安定同位体比(δ13C、δ15N、δ34S)分析を実施し、永久凍土融解に伴う湖-集水域系の物質循環を評価する。硫黄濃集などの重要層準については、色素分析や遺伝子解析により湖内の生態系への影響を検討する。サンギンダライ湖の湖底堆積物コアの研究については、Itrax-XRFコアスキャナーで約0.5 mm間隔で取得したXRF強度の含水率補正と、ガラスビードXRF法による元素含有量を用いた較正によって、全長13 mの化学組成含有量記録を復元する。これと並行して、堆積物の花粉分析を約5 cm間隔で実施し、最終氷期から完新世に至る植生変遷を復元する。さらには、硫黄・窒素・炭素含有量及び安定同位体比分析、色素分析や遺伝子解析の準備をオログ湖湖底堆積物コアの分析と共に順次進める。今年度は4月以降の新型コロナウイルス感染症に対する緊急事態宣言により、計画どおりに進めることが困難なことが予想される。この場合には、これまで得た分析結果をもとに重要層準を重点的分析し、効率的に堆積物から環境情報を抽出することで対処していく。当初計画の現地調査(2020年8月)は中止し、ボーリング湖掘削(2021年2~3月)についても次年度以降に延期の可能性を検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度以降に新規コア掘削を行うために、次年度使用額が生じた。
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