研究課題/領域番号 |
19KK0264
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
勝田 長貴 岐阜大学, 教育学部, 准教授 (70377985)
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研究分担者 |
志知 幸治 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (10353715)
中川 麻悠子 東京工業大学, 地球生命研究所, 特任助教 (20647664)
長谷川 精 高知大学, 教育研究部自然科学系理工学部門, 講師 (80551605)
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研究期間 (年度) |
2019-10-07 – 2024-03-31
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キーワード | モンゴル高原 / 永久凍土 / 湖沼堆積物 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、モンゴル高原北部と南部の湖沼堆積物コアを用いて、最終氷期から完新世に至るシベリア永久凍土変動の復元と水及び生態系への影響評価を行うことである。本年度は、湖沼堆積物の分析と共に現地調査を行い、次のような結果を得た。モンゴル高原北部の研究では、湖沼堆積物中の花粉化石と微生物相の解析を実施し、完新世に花粉化石の出現率の顕著な増加と微生物相の多様性が見られた。とりわけ、完新世の植生は、完新世中期に湿潤環境を示唆するトウヒ属やマツ属などの高木花粉の増加と、その後の現在に至る期間の半乾燥環境を示すモギ属やイネ科などの草本花粉への移行が見られた。これは、永久凍土の後退と関連付けて検討できるものと考えらえれる。一方、最終氷期の微生物相では、属レベルで永久凍土中の優占種として知られるPseudomonas属が検出された。 モンゴル南部の研究では、堆積物中の化学分析と現生植物の現地調査を実施した。堆積物中の有機物の定量分析結果は、不完全燃焼による測定精度の低下が明らかとなり、フラッシュ燃焼法装置で再測定を行った。その結果、永久凍土変動を示唆する硫黄含有量の上昇と安定同位体組成の正の異常が、最終氷期から完新世に至る期間で5つの層準で見られた。一方、有機炭素と窒素含有量は、完新世で顕著な増加を示し、安定同位体組成変動は、完新世初期から後期にかけてC3植物から植物プランクトンが優勢となった。これは、北部と同様に、永久凍土の後退に伴う集水域の乾燥化を示唆するものである。現生花粉の現地調査においては、森林から砂漠地帯に分布する200種以上の低木・草本植物の花粉を採取し、ステップ域にはCaragana属等の棘を持つマメ科低木が広く分布しているのが観察され、その花粉形態は大きな3つの孔を持つ特徴的なものであることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、モンゴル高原北部と南部の湖沼堆積物分析の継続と共に、植生研究において現地調査を実施した。北部の研究では、過去4万年の湖底堆積物の花粉分析結果を周辺域の花粉記録と比較検討し、完新世初期に先駆樹木のカバノキ属が優占し、完新世中期に湿潤樹木のトウヒ属やマツ属が増加し、完新世後期にはマツ属などの高木花粉の減少とヨモギ属やイネ科などの草本花粉の増加が見られた。この結果から、完新世中期の湿潤環境から後期の半乾燥環境への移行は永久凍土の後退による可能性が示唆された。微生物相解析では、湖底表層から4.5 mでは、irmicutesやPlanctomycetotaなど含む9種類が1-40%を占めた。一方で、4.5m以深では、Proteobacteriaが85-100%を占め、属レベルでは、永久凍土中の優占種として知られるPseudomonas属が80~100%占めており、多様性が低くなった。 モンゴル高原南部の研究については、過去5万年の湖沼堆積物記録から、最終氷期と完新世でTS含有量の増加とd34Sの正異常が最終氷期の3層準、完新世の2層準で見られた。一方、TOC・TN含有量記録は過去2万年前まで復元し、氷期の顕著な減少と完新世の顕著な増加が見られ、完新世初期から後期にかけてC3植物から植物プランクトンが優勢となり、これは永久凍土の後退に伴う集水域の乾燥化の可能性が示唆された。この定量分析では、堆積物中の有機物の完全燃焼が判明したため、フラッシュ燃焼法装置によって再測定を実施した。植生復元研究では、モンゴルの森林から砂漠地帯に分布する200種以上の低木・草本植物の花粉の採取を行った。ステップ域にはCaragana属等の棘を持つマメ科低木が広く分布しているのが観察されたが、その花粉形態は大きな3つの孔を持つ特徴的なものであり、分布環境に特徴的な花粉形態の一例を示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、放射性炭素年代法とPb-Cs年代法によって、モンゴル高原北部と南部の湖底堆積物の年代測定をコア深度に対して系統的に実施し、堆積物の年代軸を確立する。その上で、北部の研究においては、モンゴルでの現地調査により採取した現生草本花粉と植生分布との比較により、永久凍土動態に対する環境・植生変遷についての考察を進め、論文公表に向け進めて行く。微生物相研究については、先行研究で単離された種との系統樹の作成から、本研究で検出されたPseudomonas属の特性を明らかにする。また、土壌中の微生物多様性への環境及び化学成分の影響を他の分析結果との相関解析により理解を深める。表層堆積物の詳細解析で明らかとなってきた酸化的環境の微生物相から絶対嫌気的環境の微生物相への推移と、それに伴う化学成分との関連性も今後解析する予定である。また、堆積全体としては、DNA抽出量が少ないため、より効率的なDNA抽出方法を試みる。 モンゴル高原南部の研究では、2万年以前の湖底堆積物中のTN・TOC含有量と安定同位体組成分析を行うと共に、現在進めている粒度解析及び鉱物組成分析についても、データ数を増やして、高解像度の古気候記録の復元を行う。また、湖の堆積物や水の現地調査を通じて、堆積物中の代替指標の検証と永久凍土の後退を含む環境変動に伴う水質や微生物影響評価を行う。植生復元研究については、2022年6月の調査では、モンゴル南部の乾燥地域に特徴的なEphedra属およびHaloxylon属がまだ開花しておらず、花粉の収集ができなかったため、2023年は花粉採取を7月に実施してこれらの分類群の花粉採取と分布域の調査を行う。また、採取した草本の多くは属あるいは科レベルでの同定にとどまったため、モンゴル側の植物研究者とともに植物標本および写真を検討して、種の同定を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題は当初、モンゴル高原にてボーリングコアの新規掘削を2020年3月に予定していたが、コロナ禍で掘削できなかった。2021年度も引き続き、コロナ制限で掘削ができず、本課題での新規掘削は断念し、既に採取済みのモンゴル高原北部と南部のボーリングコアの分析と分析結果の検証のための現地調査を中心とし、永久凍土変動の復元とそれに伴う水・生態系の影響評価を行うことにした。2022年度は渡航規制が緩和され、植生復元の分担者はモンゴルへ渡航し調査を実施した。2023年度は更なる規制緩和が予定され、現地調査を7月に行える目途が立ったため、その渡航費を2023年度に移行した。また、2021年度まで学内外の分析利用施設が制限され、分析の一部で遅れが生じているため、試料分析費、その消耗品費と分析補助者の謝金を2024度に移行した。
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