研究課題
一般の放射線被ばく影響評価では、放射性微粒子による内部被ばく影響は外部被曝と同じとされている。しかし、原爆被曝者の疫学データや核実験場があったカザフスタンのセメイ市周辺地域での健康調査結果は、残留放射性物質による内部被曝の健康リスクは外部被爆に比べて大きいことを示している。したがって、その生物影響の詳細を確定することは、ヒト被曝影響の正確な評価と被曝防護において極めて重要である。本研究は、原爆爆発後に土中で多量に生成した放射性二酸化マンガンをモデルにし、放射性微粒子による内部被ばく影響を動物実験によって明らかにすることを目的とする。実験実施可能な施設を持つカザフスタンのセメイ医科大学およびカザフスタン国立核センターとの国際共同研究により、ラット及びマウスを用いた病理学的、分子生物学的な生物影響メカニズム解析を行う。2021年度の研究は、2020年度同様にCOVID-19感染拡大によりカザフスタンとの人的研究交流が不可能となったこと、及びカザフスタン国内の感染状況の悪化に伴いセメイ医科大学とカザフスタン国立核センターの施設の利用が制限されたことにより大幅な変更となった。Web会議システムなどによる研究協力により以下の共同研究を実施した。1) 規模を縮小して実施したマウス曝露実験について、内部被曝線量の推定および曝露による病理学的変化について詳細に解析した。2) セメイ医科大学とのこれまでの共同研究で行ったラットへの放射性マンガン微粒子曝露実験から得られた材料について、肺組織および肝組織での遺伝子発現定量を中心とした詳細な被曝影響解析を行い非常に興味ある結果を得て公表した。
3: やや遅れている
COVID-19パンデミックの影響で、予定していたマウスへの放射性マンガン微粒子曝露実験について日本側の参加が不可能となり、大幅に縮小実施せざるを得なかったため。一方で、それ以前の共同研究で得た放射性マンガン微粒子曝露したラットの保存サンプルを用いた解析は順調に進み優れた成果を得た。
2年間延期されていた以下の実験を実施する。1) カザフスタン国立核研究センターの原子炉の中性子線によりMnO2微粒子を放射化し、10週齢の雄C57BLマウスへ曝露する。2) 曝露後の動物を剖検し主要臓器の放射活性をγ線スペクトロメーターで測定する。動物体内での各臓器の放射活性からの相互の寄与をモンテカルロ法とマウス数学的形態モデルにより計算して、臓器ごとの吸収線量を推計する。3) 曝露後3日、14日、60日で、各群5匹ずつを剖検し、主要組織をホルマリン及び核酸保存試薬でそれぞれ固定する。全臓器について病理組織学的検索を行い、影響の線量依存性を明らかにする。遺伝子発現レベル変動を指標にした生物学的線量計測法を応用して、放射線感受性遺伝子発現定量により56MnO2の内部被曝の特異性と線量依存性を解明する。
COVID-19パンデミックによる影響で、予定していたカザフスタン・セメイ大学へ赴いての共同研究ができなかったため、セメイ医科大の研究施設利用費・旅費等を次年度に繰り越した。2022度は、この延期した曝露実験を実施するため繰り越し予算を用い、さらに2022年度請求した補助金を用いて放射線被曝影響解析研究を行う。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 5件、 査読あり 11件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (17件) (うち国際学会 15件、 招待講演 3件)
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