NOAAの研究者・技術者と協力し、液相中または気相中に分散する微粒子の中から鉱物ダスト粒子を選択的に検出して定量できるようにするために、これまでに独自の汎用粒子分析法として開発をすすめてきた「複素散乱振幅センシング法」に対して以下の2点の改良を施した。(1)直交する2つの偏光成分ごとに前方散乱波の複素散乱振幅を検出する光学系・検出器を設計・開発した。この改良により、鉱物ダスト粒子の非球形度の情報を得ることが可能となり、粒子種の判別能力が大きく向上した。(2)前方散乱波の検出と同時に、後方散乱波を低コヒーレンスマイケルソン干渉計で検出するシステムを開発した。このシステムにより、ビーム中を横断する粒子の光軸方向の位置を±10マイクロメートル;の精度で決定することが可能となった。この技術により、液相中だけでなく気相中の粒子についても、各偏光の複素散乱振幅を±5%の誤差で測定することが可能となった。また、ナノ粒子の凝集体形状の非球形粒子について、複素散乱振幅の観測データから粒子の複素屈折率を推定するベイズ統計アルゴリズムを開発した。その手法を従来版の複素散乱振幅センシング法を用いて2022年夏に取得された西部北太平洋上の大気エアロゾル観測のデータに適用することで、大気中のブラックカーボン粒子の複素屈折率の制約に初めて成功した。観測的制約に基づく新たな推奨値1.95+0.96iを用いることで、従来の仮定値1.95+0.79iを用いた場合に比べて、ブラックカーボン単位質量当たりの光吸収が16%程度大きくなると見積もられた。この成果論文は米国エアロゾル学会のAerosol Science Technology誌において年間アクセス数第1位となった。
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