研究課題
本研究は「民主政アテナイの演説文化:法廷における実践的修辞戦略に関する総合的研究」を基課題とし、その成果を海外の専門研究者とともに多角的に分析し、更なる発展を目指す。研究全体として、古典期アテナイの演説文化の歴史的特性を明らかにし、アテナイ民主政像を構築し直すことを目標とする。基課題では、法廷弁論の修辞技法に注目し、史・法・文の知見を総合して如何なる技法が説得に用いられたのかを精緻に分析し、歴史的特性の解明に努めた。メンバー各自が研究を進め、著書・論文を発表した他、国際学会を開催して口頭発表、意見交換を行なった。その成果は国際共著論文集として発表すべく準備中である。本国際共同研究では、主に法廷弁論の修辞技法と他の弁論の修辞技法との比較研究を行う。ジャンルの差異を確認し法廷弁論の特性を明確化すること、類似性・影響関係を分析して民主政アテナイの演説文化全体の特性を明らかにすることを目的とする。2022年度は、後期に渡英し、Royal Holloway, University of Londonを拠点として自身の研究を進めるとともに、研究者との意見交換を重ねた。上記国際共著論文集を発行するための意見交換を重ね、出版準備を進めた他、ポーランド(カトヴィツェ、クラクフ)で招待講演を行い、民会・法廷で野次の言及方法に差異があること、見物人・観衆の存在を演説者が巧みに利用していたことについて、講演を行なった。これらはいずれも近く論文になる予定である。また法廷・民会での演説の特性を考えるため、喜劇中に描写された演説についても検討が必要であると考え、古喜劇を中心に関係文献を収集し、先行研究・関連史料の分析を進めた。これにより喜劇でも法廷や民会演説に近い表現が、劇の設定に合わせ、巧みに用いられていたことが明らかとなった。これについては2023年に行われる国際学会で発表予定である。
3: やや遅れている
コロナ禍のため、本来2022年3月末に渡航する予定であったものが、2022年10月の渡英となった。このため2022年度前期には渡航先研究機関の研究者との意見交換を十分に進めることができなかった。しかしながら、その間も自分自身でできる研究を進め、演説中の野次描写に関する論文、外交文化に関する論文を発表した。また渡航後、渡航先所属機関の研究者をはじめ、欧米の研究者と意見交換を重ね、野次の抑制や野次馬への言及など、古典期アテナイの演説の特性を明らかにするテーマについてポーランド(カトヴィツェ、クラクフ)で招待講演を行い、これをもとに論文執筆も進めている。したがって、コロナ禍で渡航を延期せざるを得なかったことにより、やや遅れているとは言えるが、それ以外については概ね順調に進んでいると言える。
2023年度は、まず国際共著論文集(基課題の科研プロジェクトで開催したシンポジウムの発展型)を刊行を目指して、自身の論考をブラッシュアップするとともに、寄稿者及び関係者と意見交換を重ねて、論文集全体の質を高めるように努める。また、発展的なテーマとして、6月にロンドンでアテナイの法廷演説に見られる戦争、暴力的表現に関して報告を行う予定であり。これに向けて主対象となる法廷弁論(デモステネス、アイスキネス、リュクルゴスなど)、比較対象となる歴史叙述(ディオドロス、アリアノスなど)の分析を行い、報告後は論文化に向けて議論の精緻化を図る。また7月に喜劇(主にアリスとファネス)中に描かれる演説に関して、コインブラ(ポルトガル)で開かれる国際学会に参加し、口頭報告を行う予定である。これらもその後、英語論文にまとめるつもりである。また昨年度(2022年3月)にポーランドで行った招待講演をもとに英語論文を執筆する。2023年9月末に帰国する予定であり、その後は上記の論文執筆に努めるほか、外国人研究者を1名招聘し、研究会を開催して、参加するその他の研究者とともに本研究テーマ全体に関する意見交換を行い、研究のさらなる発展に繋げる。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件) 図書 (2件)
Japan Studies in Classical Antiquity
巻: 5 ページ: 78-98