最終年度である2023年度には、本研究の目的である①栽培穀物の利用方法について整理を行うとともに、ロンドン大学でその手法を学んだ②炭化物の微構造分析の実験を進め、さらに③中国における現地調査を実施した。特に②については、穀物の加工・調理方法によってその微細構造が異なることを確認することができ、今後における出土穀物の炭化時の状態解明に大きな可能性を提示できそうである。また、①についてもこれまで行ってきた中国国内の民族誌における穀物利用に加え、中国国外の例についても情報を入手できたことは大きな収穫であり、穀物とその加工・調理方法の相関関係に多様な選択肢を提示できた。 研究期間全体を通した成果としては、上記と一部重なるが、雑穀を中心とした穀物の中国国内における最新の研究動向を理解できたこと、また中国以外の地域を含めたその加工・調理の多様性を理解できたことが大きい。さらに、当初の想定を上回る成果として、ロンドン大学の植物考古学研究室で学ぶことができた炭化穀物の微細構造分析が挙げられる。本分析方法は西アジアのコムギ文化圏で実施され始めた新たな手法であり、東アジアでは未実施である。したがって、その手法の導入を目指し、帰国後に基礎実験を進められた点は今後の研究に繋がる大きな成果である。その他、約半年におよぶイギリス滞在を通して、現地研究者と新たな関係を構築することができ、2023年に開催したシンポジウムへの招聘にもつながった。 新型コロナによる渡航制限の影響により、当初予定した2020年8月から2021年3月の8か月間にわたる渡航は実現せず、2022年5月から10月の160日間に短縮せざるを得ない状況となった。このように大幅な変更を強いられたが、渡航期間中および帰国後の積極的な活動により所期の目的は十分に達成でき、さらには予想以上の収穫もあったと考えている。
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