研究課題/領域番号 |
19KK0301
|
研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
森崎 美穂子 大阪市立大学, 大学院経営学研究科, 客員研究員 (60812708)
|
研究期間 (年度) |
2020 – 2022
|
キーワード | 食文化 / 栗 / テロワール産品 / 地域振興 / 観光振興 / 景観 / 地理的表示制度 / 農泊 |
研究実績の概要 |
本国際共同研究は、現在の資本主義経済が「過去」をどのように高付加価値化し、とりわけ伝統的な食や農村地域をどのように文化遺産化するかについて、テロワール概念を用いて解明することを目的としている。フランスの食文化研究を先導するリヨン第2大学農村研究学部長Delfosse教授の研究チームに参加することで、テロワール産品の研究の蓄積と調査手法についても学習を深めるとともに、基課題(郷土菓子の「真正性」と農村ツーリズム振興:日仏比較から)の調査を発展させる。同研究チームによる農産品の高付加価値化モデルは2010年のフランス人の美食術的料理のユネスコ無形文化遺産登録に際しても活用された。同チームはワインやチーズ等のテロワール産品が、とりわけ農村において、景観と地域のブランド価値を高め、観光客を呼び込む地域振興の資源となっていることを示している。本共同研究では、日仏共通の産品である「栗」に着目することで、日仏比較研究を行うことを可能としている。また食文化による地域振興について、フランスでの研究事例を蓄積することも本共同研究の重要な目的の一つであり、栗の他にチーズやワインを分析対象に加えることを予定している。 当該年度(2020年度)は、新型コロナウイルス感染症が世界的な流行となったことで、渡航の手続きさえ進まなかった。そのためDelfosse教授とはWEB会議システムで打ち合わせを行い、研究計画の共有、現地調査の段取りを行った。このなかで、コロナ禍での両国の都市部の食糧を巡る課題や変容についても確認できた。都市から農村への移住の増加など農業と農村の価値が見直されている点や、都市と産地を直接結ぶ食料の流通の変容(多様化)も起こりはじめた。こうした点も本国際共同研究の課題に追加し、感染状況を注視して調査の準備を進めているところである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2020年の4月から研究が開始できるように計画していたところ、新型コロナウイルス感染が国際的に拡大し、フランス国のビザの取得や入国が禁止となった。手続きに必要な条件も常に変化し、研究期間も度々変更せざるを得ない状況が続いた。こうした状況でも受け入れ先のリヨン第2大学農村研究学部長Delfosse教授からは、常に手続きを進められるよう対応していただけた。紆余曲折を経て、実際に渡航したのは2021年4月になってからであった。そのため当該年度(2020年度)は、渡航も現地調査も実施できなかった。 しかし、渡航の手続きを進める過程においても、コロナ禍での両国の食料の需給の変化について学ぶ機会にもなった。とりわけ都市の食糧供給体制の課題や農村への移住といった動きは、国際的に農業や農村、食糧の価値が見直される機会となっている。本共同研究の課題にもかかわる両国の食糧と農村を取り巻く変化をリアルタイムで情報を得られたことは貴重であった。 国内の調査地については、兵庫県・京都府の丹波栗の取材、岐阜県中津川市の栗の生産者への取材は電話等を活用して継続できた。また地理的表示産品に登録された日本酒(GIはりま)は、フランスへの知名度拡大強化を試みていた時期であり、現地でのPR活動が困難であっても、SNSや動画作成等、販促の準備を進めている。またこのような日本の伝統的な産品の原材料(酒米)がコロナ禍でどのような影響を受けたのか、また今後、どのように海外に発信していくのか等々、準備の段階から取材できたことは有意義であった。これら日本の取り組みについては、地理的表示産品の国際学会ODTにWEB会議システムで参加し、発表を行った。
|
今後の研究の推進方策 |
2021年度は、リヨン第2大学の研究チームに参画し、研究と調査を進める予定である。まず、リヨン第2大学の農村研究学部長Delfosse教授の研究チームによるこれまでのテロワール産品の研究と現在進行中のフィールドワークに同行し調査手法についても学びを得る。また基課題(郷土菓子の「真正性」と農村ツーリズム振興:日仏比較から)のこれまでの調査を踏まえ、研究チームで意見交換を行い、アルデシュ県での調査を進展させる。新型コロナウイルスの感染拡大によって、フランスにおいても観光産業、それに関連する食品産業も影響を受けている。そのため申請時に課題の目的には入れていなかったが、アルデシュ県の栗の産地をはじめ、食文化による地域振興の優れた事例となっている伝統的なチーズの産地、ジュラ地方、オーブラック地域、サヴォワ地方でも、コロナ禍での生産と販路、観光関連事業の対応など、喫緊の課題もヒアリング調査のテーマに加える。また農村部では、移住者が増加傾向にある一方で、ユネスコの無形文化遺産への登録後の措置として設置される4つの都市の美食博物館等では、2019年に開館したリヨンが休館している。都市部の美食文化の状況についても確認が必要である。 なお現在(2021年5月)、フランスでは感染症対策の規制を段階的に緩和する方針が発表され、ワクチン接種が進んでいることから現地調査が行える可能性が高い。しかし、状況に応じてWEB会議などに切替を行うなど、自身と取材先へ感染予防策を徹底する。 フランスでの調査結果は、順次、文化経済学会やフランスの農業経済学会、また理的表示産品の国際研究大会ODTフォーラムなどで報告を行うこととする。また以上の報告を取りまとめ、フランスにおける伝統的な食品を通じた農村ツーリズム振興について、Delfosse教授に指導を仰ぎ、日仏比較論文と国際ジャーナルの投稿、書籍の刊行の準備を進める。
|