研究課題/領域番号 |
19KK0305
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館 |
研究代表者 |
小野塚 拓造 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, 学芸研究部, 研究員 (90736167)
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研究期間 (年度) |
2020 – 2022
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キーワード | 後期青銅器時代 / 鉄器時代 / ペルシア時代 / 交易 / 土器 / イスラエル王国 / アッシリア / ティルス |
研究実績の概要 |
本研究は、繁栄を誇った青銅器時代の文明が瓦解した後、現在まで文化的影響を残すことになる諸集団が登場した東地中海世界の初期鉄器時代の様相に、考古資料からせまることを目的とする。特に、近年まで研究が進んでいなかったフェニキア人が「出現」した背景と意義を、東地中海・西アジア史の中に位置づける試みである。 当初、2020年度には、イスラエルのオルブライト考古学研究所に滞在、ゼロール遺跡やカシーレ遺跡の出土資料を検討し、新資料を含めたこれまでの研究成果を、トロント大学が調査を進める北レヴァント沿岸地域の研究事例と比較検討するなど、研究を集中的に進める予定であったが、パンデミックにより研究計画の大きな変更を余儀なくされた。海外での調査研究は延期し、以下の課題を設定することで、次年度以降の研究に備えた。 1) 近年出版が相次いでいる初期フェニキア関係の文献の収集、研究動向の検討 2)本研究の基礎となっている研究課題(17K13573)で扱った資料の再検討 まず、「フェニキア人」の定義と、その「出現(ethnogenesis)」に関する最近の議論と、近年出版されたドル遺跡の発掘調査成果とを対比させて論点を整理し、今後の研究の方向性を検討した。その結果、フェニキア人の「出現」については、研究の計画段階で想定していた期間(前12~前10世紀)よりも長期的な視点から検討しなければならないことが明確になった。そこで、分析対象であったレヘシュ遺跡の出土資料のうち、後期青銅器時代(特に前14~前13世紀)、および後期鉄器時代(特に前9世紀~前7世紀)、初期ペルシア時代(前6世紀末~前5世紀前半)に相当する文化層、出土物を整理し、検討した。その結果、同遺跡の物質文化が前8世紀頃から「グローバル化」することを突き止め、フェニキアによる活発な海洋交易と、内陸への影響についての仮説を設けることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2020年4月よりイスラエル、9月よりカナダに滞在し、共同研究に集中する予定であったが、新型コロナウイルス感染症の影響で渡航ができなくなった。その後、当初の計画を半年ずらして実施すべく、渡航の機会をうかがったが、パンデミックの影響が長引き、研究計画を大幅に変更することとなった。したがって、研究の進展は計画よりもかなり遅れている。 その中で、最近の研究動向をふまえつつ、レヘシュ遺跡の発掘調査成果(特に後期青銅器時代、後期鉄器時代)の再検討し、いくつかの知見を得ることができたことは、今後の研究への布石となっている。後期青銅器時代層についての新知見は、3月にオンラインで実施された西アジア考古学会における共同発表に含めることができた。後期鉄器時代層についての研究成果は、学術振興会の二国間交流事業(共同研究「王国から行政州へ―鉄器時代からペルシア時代のイスラエル北部の考古学的研究」)による国際ワークショップで発表する予定であったが、新型コロナウイルス感染症の影響により、ワークショップ自体がキャンセルとなった。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の研究計画が大きく狂ったことで、本研究の期間全体の進め方を再調整しなければならない事態となった。2021年5月の時点で、各国で入国制限が維持されており、国内においては、ワクチン接種が遅れているなど、海外渡航をともなう研究活動の再開はしばらく先になる見通しである。そこで、本研究の根幹となる在外での共同研究は、2022年度に延期することとし、当初の計画と同様に、イスラエルのオルブライト考古学研究所およびトロント大学中近東文明学部と再調整を行う。共同研究の受入れ機関に変更はないが、想定外の状況にも対応できるように、次善の候補も検討しておく。 2021年度は、レヘシュ遺跡の出土資料の検討を継続し、土器片の胎土分析、関連層位の放射性炭素年代の分析数を増やすことで、昨年度に得られた視点と仮説の検証を進める。研究成果は、American Schools of Oriental Researchの年次大会や、前述した二国間交流事業による国際ワークショップ等で発表する予定である。
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