研究実績の概要 |
本国際共同研究では,幼児期から児童期を対象に,状況に応じた嘘および道徳判断の両者に文化差が関連するかどうかを検討するものである。具体的には,状況に応じた嘘と道徳判断の両者が関わる課題として,先行研究を参考に課題を設定し,心の理論の発達の程度を調べる課題を合わせて実施することを検討している。その結果,日本とイギリスに共通する全体的傾向として,心の理論の発達とともに,定型的な嘘と状況に応じた嘘を区別でき,状況に応じた道徳判断ができることが見込まれる。これは文化を越えた普遍性を示すものと考えられる。さらに,日本のように「包括的思考様式の文化」では,比較的少ない手がかりで状況を読んだり,情報を補って把握する傾向が高いと考えられる。これに対して,西洋のように「分析的思考様式の文化」では,事実に注目し,その関係を論理的に考える傾向が高いと考えられる。このことから,文化差が関連し,日本の児童は,イギリスの児童よりも,嘘を寛容に考え,道徳判断で悪くないと判断する傾向が相対的に見られる場面もあると予想される。この判断の程度の差が,状況に応じた嘘と道徳判断における文化的独自性を示すと考えられる。今年度は,新型コロナウイルスの欧米での感染拡大で,イギリスがロックダウンしたことで,予定されていた渡英ができなかったため,今後これらの実験・調査計画について,文化差をふまえて,課題の設定,統制の方法などを引き続き相談しながら,これらの研究を進めていくことになる。
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