感動は人が示す高次の情動状態であると考えられ、多くの人にとって重要な経験である。従来の研究では、心理実験や自律神経計測に基づいた検討が行われてきた一方で、その神経基盤を探る実証研究は、近年始まったばかりであり不明な点が多い。現在行われている取り組みの多くは、感動が生じた際の脳活動を計測することに注力している。本研究では、脳機能計測実験と音響解析手法を組み合わせることで、感動の生起要因を解明および操作することで感動と脳に関する研究の更なる発展を目指す。 本年度は、7月に海外渡航を行い国際共同研究を開始した。McGill Universityの所属部局において、新型コロナウイルスの影響下では実験実施のための倫理申請に非常に長い時間がかかることがわかったため、これまでに得られている脳機能計測データおよび音楽特徴料データを解析することで研究計画を実施することとした。音楽情報処理、心理実験、機械学習の手法を組み合わせてどのような音響特徴が感動をもたらしやすいか検討した研究が、国際誌Cognitionに採択された。さらに、脳機能計測実験のデータについて、Robert Zatorre教授と繰り返し打ち合わせを行いながら解析を進めて、どのような脳ネットワークを示している時に感動が生起しやすいかについて検討した。この研究について現在論文執筆を行なっている。これらの研究を通して、感動の生起要因についての新しい知見を示すことができた。
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