本研究が目的とした4つの課題、すなわち、1)行政のデジタル化に関する法制度の全体像とそれらの相互関係の解明、2)欧州指令・規則、各国国内法改正の契機となった基本思想の探求、3)各国法制度(連邦・地方政府ともに)における欧州法の受容過程における基本理念・枠組みの変容の確認、4)法の多層性を前提としたアルゴリズムに関する規制枠組みの方向性と手法についての国際的な比較のすべてを充たすテーマとして、帰国後の研究は刑事司法におけるデータ移転と行政のAI利活用について力を入れ、最終年度は、研究成果を公表した。 一つは、日本におけるAI規制と行政における利活用の在り方を、欧州における諸価値と比較しながら紹介する論考の執筆である。"ARTIFICIAL INTELLIGENCE ACCOUNTABILITY OF PUBLIC ADMINISTRATION IN JAPANESE LAW & POLICY CONTEXT”(日本の法政策文脈における公行政のAI責任)では、フランスの研究者からの質問に答える形で欧州法における諸価値(人権、民衆参加など)に照らして日本のAI戦略やRPAの活用がどのように評価できるかを検討した。 もう一つは、ラウラ・ドレスヒラー氏との共著論文「EU法からみた日本の個人データ越境移転の課題」では、EU法における個人データ移転スキームの構造を紹介しつつも、欧州法の観点からみた日本法の問題点につき検討したものである。特に、刑事司法分野におけるデータ移転と国際協力の観点を踏まえつつ、データ保護法制全体を俯瞰したものとなっている。 この2点を含め、本研究では、コロナ危機それ自体による影響を受けつつも、コロナ危機でのデータ利活用や日本法・ドイツ法・欧州法での具体的な領域における情報流通過程と法政策の関係を検討し、国際的比較に資する基礎的な資料を作成することができた。
|