研究課題/領域番号 |
19KK0332
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
太田 美幸 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (20452542)
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研究期間 (年度) |
2020 – 2022
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キーワード | スウェーデン / ジェンダー / 手工芸 / 職業教育 |
研究実績の概要 |
本研究は、基盤研究(C)「スウェーデン女性運動の比較発達社会史的研究」(2019~2022年度、19K02524)を基課題とし、19世紀後半に開始された女性職業教育の初期段階の様相を日本との比較において検討するものである。 基課題の研究では、スウェーデンの女性運動を①女性選挙権運動期(19世紀後半~1920年代)、②福祉国家形成期(1930年代~1950年代)、③労働市場への参加が進んだ1960年代以降の三つの時期に区分したうえで、②から③への転換に着目し、女性たちが生き方の変容にどのように向き合ったのかをライフヒストリー資料の分析によって探ることを課題としているが、本国際共同研究では、①および②の時期における女性たちの家庭内外での役割の実態をふまえたうえで、女性たちの意識変容を促した背景要因を把握することを課題とし、とくに女性たちの変化を牽引した職業教育の特質を日本との比較によって明らかにすることを目指している。19世紀後半以降に各国で導入された女子職業教育では手工芸の技術が多く教えられたため、本研究では女性向けの手工芸教育と手工芸労働にとくに焦点を当てている。 2020年度は、スウェーデン、日本の両国における手工芸運動の展開、および女子職業教育の導入過程とその内容を比較歴史分析の手法によって検討した。スウェーデンでは、女子職業教育の導入とほぼ同時期に農村女性の経済的自立を目指す手工芸運動が活発化し、手工芸に従事する女性たちは20世紀の近代工芸運動や近代デザイン産業の国際的な成功にも貢献した。他方、日本では明治期初期に女性労働に関わる教科として「手芸」が女子教育に組み込まれたものの、女性の手工芸労働は長らく不可視化・周縁化されてきた。両国の比較を通じて、教育制度の外で展開したノンフォーマル教育の構造がジェンダー秩序変容に大きく貢献したという仮説が導出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年9月よりスウェーデン・リンシェーピン大学に客員研究員として滞在し、成人教育研究ユニットに所属する研究者らと意見交換をしながら研究を進める予定であったが、COVID-19感染拡大により11月初旬より原則として在宅で研究活動を進めることになり、また学外での調査活動が大きく制限されたため、当初の予定どおりに研究を進めることが困難な状況となった。とくに、遠方の教育機関および手工芸団体にて予定していた資料取集や、高齢の運動関係者に対するインタビュー調査の実施は延期せざるを得なかったため、当面は入手済みの資料にもとづくマクロな比較歴史分析の作業に集中することとなった。2021年度前半も事態の改善が期待できないため、執筆中の論文が完成した時点でいったん日本に帰国することとし、未実施の調査についてはCOVID-19の収束後に改めて渡航し実施することを予定している。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画では、2020年度秋よりリンシェーピン大学に滞在して、民衆教育機関における女子職業教育の実態に関する調査を行う予定であった。リンシェーピン大学滞在中は、同大学所蔵資料の調査のほか、複数の民衆大学およびノンフォーマル教育機関での資料調査、20世紀前半までの手工芸運動に参加した女性たちへのインタビュー調査を実施することを計画していたが、COVID-19感染拡大のため教育機関調査や高齢者へのインタビューは実施できていない。また、2021年2月以降は首都ストックホルムの国立美術工芸大学に拠点を移し、手工芸運動における女性たちの活動と職業訓練事業についての調査の実施を予定していたが、首都でのCOVID-19感染状況が特に深刻であったため、2021年2月以降も引き続きリンシェーピン大学にとどまることとした。そのため、国立美術工芸大学の協力を得て実施する予定だった調査についても未実施である。これらの調査については、2021年度以降、感染が収束した時点で改めて調査を行うことを予定している。 入手済みの資料にもとづくマクロな比較歴史分析の作業については順調に進行しており、2021年5月に論文が完成する見込みである。この論文については、2021年11月開催予定のMimer(全国民衆教育研究者ネットワーク)年次大会にて研究報告を行うとともに、スウェーデン国内の学術誌に論文を投稿することを予定しているが、この論文に続く作業に不可欠である調査を実施できる見込みがないため、2021年5月末に一旦日本に帰国し、COVID-19感染拡大をめぐる事態が収束したのちに改めて渡航して、残る調査を実施したいと考えている。共同研究者とは、帰国後も電子メールやオンライン会議等を通じて意見交換を継続することについて同意を得ている。
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