本研究は、基盤研究(C)「スウェーデン女性運動の比較発達社会史的研究」(2019~2023年度、19K02524)を基課題としている。本国際共同研究では、女性参政権運動が活発化した19世紀後半から1920年代における女性たちの家庭外での活動領域と役割意識の変容過程に注目し、その背景要因を同時期の日本との比較において検討すること、そのうえでジェンダー秩序変容の端緒を比較歴史分析の手法により解明することを試みた。 2020年9月から2021年5月末までリンシェーピン大学行動科学研究所の成人教育・民衆教育研究ユニットに在籍し、民衆教育研究のヘンリック・ノルドヴァル教授、およびスウェーデンの民衆教育実践と手工芸教育についてジェンダー史の観点から研究してきたアンマリー・ラインデル元准教授と意見交換をしながら研究を遂行したが、新型コロナウイルス感染拡大のため課題設定と研究計画を縮小せざるを得なかった。滞在中の研究成果は、同年11月に開催されたMimer(スウェーデン民衆教育研究ネットワーク)年次大会にてノルドヴァル氏のコーディネートにより報告し、現地研究者とのディスカッションをおこなった。同内容については、2021年12月に金沢市で開催された北欧教育研究会にて日本語でも報告した。 2022年度夏季に再度リンシェーピンを訪問し、2021年度までに終えることができていなかった調査を再開した。特に19世紀末の女性労働運動および主婦運動の史料を精査し、女性を対象として展開されたノンフォーマルな手工芸教育が職業教育として機能しただけでなく「良妻賢母」規範の構築にも寄与していった過程を分析した。その成果は2022年度末に刊行した日本語の単著にて発表したが、今後これを2021年度までの成果とともにスウェーデン語または英語で発表することを目指し調整を進めている。
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