研究実績の概要 |
2020年度は, Ejiri(大阪大, PD), Iwai(大阪市立大学, 研究員)とともに, 代数的ファイバー空間に対して定義される相対的な(多重)反標準束およびその順像層の正値性を研究した. 結果として, (a) 相対的な反標準束の漸近的な基底点集合, (b) 順像層のある種の平坦性, (c) 代数的ファイバー空間の幾何学, の間の関係が明らかになった. 相対的な反標準束の正値性が, 順像層の平坦性を介して, 幾何学的な構造に影響を与えるメカニズムがわかってきた. ここで研究される漸近的な基底点集合とは, non-ample locus/stable base locus/non-nef locus/特異計量のLelong数のlevel setであり, ある種の平坦性とは数値的平坦性/Hermite的平坦性/エタール平坦性を意味する. LC特異点に関連するnon-ample locusに対する結果を説明する. Kollar-Miyaoka-Moriによれば相対的な反標準束は豊富には成り得ない. 近年, Dengにより, この結果はnon-ample locusを用いて一般化された. 我々のnon-ample locusに対する成果はDengの結果のLC特異点への一般化を与える. この研究はAmbro, Cao, Horing, Deng, Druel, Kollar-Miyaoka-Moriらによる類似の成果に対する系統的な理解を提供する. 証明では順像層に対する代数的な正値性や複素解析的な正値性の理論が使われる. 代数的な正値性はViehwegの弱正値性などで定式化される一方で, 複素解析的な正値性はBergman核や多重劣調和関数などで定式化される. これらを比較し検討する中で順像層の正値性の理論への理解が深まった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
正則切断の拡張問題の研究はいくつかの文献をまだ精読できておらず遅れている. また, LC特異点に対する大目標にも大きな進展は得られなかった. 一方で, 相対的な反標準束の性質が, 順像層のある種の平坦性を介して, 幾何学的な構造に影響を与えるメカニズムがわかってきた. その研究過程で, 順像層の代数的/解析的な正値性の理論を研究し, LC特異点やHodge理論への理解が深まった. 全体としてはおおむね順調に進展していると考える.
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今後の研究の推進方策 |
コロナウィルスの感染拡大の影響で予定していた国際研究集会の開催や国外での研究討論を行えなかった. 今後も国外での研究活動計画を適宜見直していく必要がある. 長期滞在は行えるように海外共同研究者や外国機関と連絡を取り合ってく. 相対的な反標準束が数値的に有効(nef)の場合には, 代数的ファイバー空間の全空間は, ベースの基本群のファイバーの自己同型群への表現から構成される. この表現の“複雑さ”と全空間の幾何学についての理解を深めていく. 同時に, 拡張問題についてのいくつかの文献を精読し, 研究を行うための基礎知識を身につけていく.
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