研究実績の概要 |
本研究では, 代数幾何(特に双有理幾何)における超越的な手法(複素解析/微分幾何の手法)を発展させ, 正則切断の拡張問題や正曲率の多様体への応用を与える. 2023年度は, 昨年度に引き続き, LC特異点を持つ多様体に対する単射性定理(Kodairaの消滅定理の一般化)を研究した. 昨年度には, この単射性定理をコンパクトなKaehler多様体に対して証明したが, 2023年度にはこの成果を正則凸なKaehler多様体へ一般化した. 正則凸多様体はStein多様体への固有な正則射を持つため, この一般化はKaehler空間の(退化も許す)変形族への拡張と解釈できる. この変形族への拡張は, 代数幾何的にも複素解析的にも極めて自然であり, 様々な応用が期待できる. また, この成果により本研究の動機であった藤野予想が満足のいく形で解決できた. 代数的な単射性定理はAmbro, Fujinoにより混合Hodge構造を用いて発展しており, 今後, 混合Hodge構造の複素解析的な側面の開拓が期待される. また, ベクトル束の特異エルミート計量に対するNakano正値性の理論も研究した. 具体的には, Zariski開集合上での滑らかな近似を用いたNakano正値性の定義を与え, その定義からdbar-微分方程式の解の最良評価が得られることを証明した. また, 代数幾何の設定で現れる順像層が近似を用いたNakano正値性の定義を満たすための幾何学的な条件を与えた. さらに, 底空間がCalabi-Yau型の多様体になる局所定数射を研究し, その基本群のファイバーの自己同型群への作用を調べた. 結果として全空間とファイバーの小平次元の関係を与え, Hacon-Mckernan予想を含むいくつかの代数幾何の問題が局所定数射の性質から従うことを示した.
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