本研究課題の目的は原子核エネルギー密度汎関数の中性子-陽子対相関部分を既知の実験データを用いて決定し、未知の量である、ニュートリノの質量の決定に重要となる二重ベータ崩壊行列要素や、元素合成のrプロセス決定経路に重要となる中性子過剰不安定核のベータ崩壊半減期を予言できる、精密な原子核エネルギー密度汎関数を構築することである。 密度汎関数の中性子-陽子対相関・粒子空孔相関の結合定数はベータ崩壊やガモフ・テラー共鳴のエネルギーや強度を用いて決定される。これらを密度汎関数に基づいて計算する中性子-陽子チャネルの準粒子乱雑位相近似(pnQRPA)では、二準粒子励起の重ね合わせで励起を記述するため、共鳴幅の記述などが不十分であることが以前から知られている。準粒子とフォノン振動の結合を入れた定式化を行い、pnQRPAの効率的な解法である有限振幅法を用いてガモフテラー共鳴の強度分布およびベータ崩壊強度の計算を変形核に対して初めて行った。フォノンとの結合を取り入れることで巨大共鳴の強度分布の記述を大幅に改善し、アイソスカラーの中性子-陽子対相関を入れなくともベータ崩壊の半減期が短くなる結果を得た。pnQRPAを超えた相関を取り入れることによりアイソスカラー対相関の結合定数はこれまでpnQRPAで決定されてきたものと大きく異なるものとなる可能性があることがわかった。 様々なフォノンとの結合を取り入れた計算を多くの同位体で行い密度汎関数の結合定数を決定するには高速な計算手法の開発が必要である。有限振幅法のエミュレータを開発し、フォノン結合で重要となる低エネルギーのQRPA解を、同じエネルギー領域の有限振幅法解の重ね合わせで系統的かつ高速に計算できることを示した。この手法をフォノンの計算とベータ崩壊の中性子-陽子チャネルの有限振幅法の計算に用いることでこれまでより数桁高速な計算が今後可能となる。
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