研究課題/領域番号 |
19KK0350
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石田 行章 東京大学, 物性研究所, リサーチフェロー (30442924)
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研究期間 (年度) |
2020 – 2021
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キーワード | 超高速現象 / 光電子分光法 / 円二色性 |
研究実績の概要 |
2015年頃に光電子分析器に技術革命がおきた。従来の分析器によって一度に取り込める光電子はせいぜい1次元のスリットに入射するものであったが、このスリットないしその概念がなくなった高精度の分析器が登場した。いわゆる「スリットレス分析器」により、試料と光の位置関係を変えることなく、2次元の立体角に放出される光電子を一度に取り込むことが可能となった。共同研究先の韓国IBS-CCES(ソウル国際大学)にはこの新型分析器が既に2台あり、最近IBS-CCES内に東大物性研との共同ラボ(ISSP-CCES Joint Research Laboratory)が開設された。この新型分析器にレーザー光源を組み込むことで、新型のレーザー光電子分光装置を建設することが本研究の目的である。 光と試料の位置関係を固定した状態で光電子の立体角分布を測定できるという特長をいかして、光電子分布の円二色性のパターンを分類する研究を行った。試料には高配向グラファイト(Higly Oriented Pyro-Graphite, HOPG)の上に真空蒸着したビスマス(Bi)を用いた。BiはHOPG上で111面が配向した微結晶として成長し、試料をマクロに見ると、あらゆる面内回転および面直を含む面についての鏡映操作について対称であるC∞v点群の対称性をもつ。この非常に高対称な試料に左右円偏向のレーザー高調波を有限の入射角で照射して光電子分布の円二色性を測定した。試料が非常に高対称であるにも関わらず円二色性は完全に消失せず、入射角を含む面内方向についてゼロとなるパターンを示した。このパターンが光、試料、分析器を含む実験系全体の点群操作の既約表現(C_\sigma群のA2表現)の基底と同一視できることを示した。この他、時間分解ARPESを駆動する小型の1MHzのフェムト秒域光ファイバー光源を作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
飛行時間型のスリットレス分析器を用いた共同研究について、測定が可能となり、これを活かした研究を展開できるようになった。また、新しいフェムト秒域光源の開発にも成功した。当初の計画では10MHz域の光源を用いた時間分解測定を計画していたが、これではポンプのパルスエネルギーを十分に稼ぐことが難しく、ほどよく低い繰り返し周波数である1MHzの光源が望まれていた。この中で、新たに着手したファイバーレーザー光源が非常に安定して動作するようになった。少なくとも2週間連続で安定にモードロックがかかり続け(フェムト秒域パルスを発射しつづける)、また2μジュールのパルスエネルギーにまで増幅することも確認できた。一方、当初開発した10MHzのフェムト秒域ファイバーレーザーは入射面が回転する機構をもつ第二高調波測定装置の小型光源として用いた。この開発に成功し、論文として発表した。また、前年度に進めたスリットレス分析器を用いた仕事関数の世界最高精度測定の論文を発表した。前年度のコロナ禍につき、2台目のスリットレスアナライザーの電源購入を一年遅らせることになったが、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
飛行時間型のスリットレス分析器および10MHzの第二高調波測定装置を用いた物性研究のプラットフォームがととのった。これらを用いた研究を推進する。新たに開発した1MHzのフェムト秒レーザーを用いて、まず6 eVの高調波を発生させて時間分解ARPESを実証する。またコロナ禍につき、2台目の新型アナライザーを駆動する電源の購入を一年遅らせたが、この納入と装置開発をすすめる。
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