研究課題/領域番号 |
19KK0379
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
吉岡 宏晃 九州大学, システム情報科学研究院, 助教 (20706882)
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研究期間 (年度) |
2020 – 2022
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キーワード | 微小光共振器 / レーザー / インクジェット / 光集積回路 |
研究実績の概要 |
本研究では、基課題研究にて代表者独自のインクジェット印刷法が成熟するまさに今、量子エミッターの駆動が可能なマイクロディスクレーザーを量子光集積回路に統合することを研究目的とする。当該年度は、精密配置ための印刷最適化、顕微分光セットアップの高性能化、モードカスケード計算解析、を国内で実施した。 精密配置ための印刷最適化については、結合導波路チップ上へ精密にマイクロディスクを配置するためのメソッド確立を行った。まず、アプローチとして、結合導波路素子がアレイ状に実装されたチップを想定して、一列目の素子群に隣接したテストゾーンで印刷位置のキャリブレーションを行う手法を取ることとした。印刷ターゲットには、過去の共同研究で試作した余りのサンプルチップを用いた。精密位置制御用のロボットでx-yの二軸方向の位置パラメータを、専用プログラムを用いて0.0005mmの設定分解能で繰り返し追い込み、任意の位置に±0.001mm程度の精度で一列目のターゲット素子群に印刷することができた。さらに、二行目以降にも連続して印刷する最適化も行った。 顕微分光セットアップの高性能化については、現行の顕微分光セットアップに高効率励起光源を導入してサンプルの測定環境を改良した。従来セットアップでは、倒立顕微鏡のサンプルステージ上側からのみの励起システムであったが、顕微鏡筐体の内部を通して対物レンズを通る励起光・シグナル光同軸型のセットアップに更新された。 モードカスケード計算解析では、独自に開発したFDTDシミュレーションソフトウェアを用いて、インクジェット印刷法によって作製されるマイクロディスク光共振器の典型的なテーパー角度(今回は8度)をターゲットに、今後予定している外部光源結合によるモードカスケードの実験評価で利用する波長1550nmについてシミュレーションを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、有機マイクロディスク光共振器の精密配置ための印刷最適化、顕微分光セットアップの高性能化、モードカスケード計算解析を国内で実施し、それぞれの事項において順調な進捗となった。精密配置ための印刷最適化については、結合導波路チップ上へ精密にマイクロディスクを配置するためのメソッド確立を行い、任意の位置への±0.001mm程度の高精度印刷手法、および、アレイ状の連続印刷手法を開発することができた。顕微分光セットアップの高性能化については、高効率励起光源を導入して現行の顕微分光セットアップを改良した。これにより、今後のナノファブリケーションで作製される不透明なシリコン基板をベースとしたチップサンプルも測定できるようになった。モードカスケード計算解析では、独自に開発したFDTDシミュレーションソフトウェアを用いて、マイクロディスク光共振器の典型的なテーパー角度(今回は8度)をターゲットに、今後予定している外部光源結合によるモードカスケードの実験評価で利用する波長1550nmについてシミュレーションを行い、結合導波路上への実装の際に必要な伝搬モードの位置を見出した。加えて、モードカスケードを応用する際に必要なモードの明確な分離を見出すために波長を掃引したミュレーションも行った。屈折率1.89のマイクロディスク用トリアジン系高分岐ポリマー、直径0.050mm、テーパー角8度において、波長1550nmを基準の波長とした際に、波長950nm程度で明確に分離するという発展的な結果を見出した。これは、結合導波路を多重化してそれぞれの波長の光のインプット・アウトプットを分離して制御ができることを示すもとで極めて重要な知見である。 以上より、当初予定事項の遂行と発展的な知見の蓄積ができためおおむね順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の流れは、国内・国外での実験を効率的に織り交ぜて、①「精密配置ための印刷最適化、顕微分光セットアップの高性能化、モードカスケード計算解析」、②「ナノファブリケーションによる埋め込み型結合導波路作製」、③「モードカスケードの実験解析とマイクロディスクレーザーのチップ統合」の実施であり、今後は、いよいよ国外での作業がメインとなり、②および③の事項をコロナ禍による渡航制限を考慮して国内・国外の作業をフレキシブルに調整して進めていく。 ②では、インクジェット印刷法によるテーパーエッジマイクロディスクと光を結合する結合導波路チップを渡航先機関のナノファブリケーション施設を利用して作製する。テーパーエッジでは一般的な矩形断面導波路と異なり導波路側壁からの平面方向の結合が困難である。そこで、結合導波路を埋め込む特殊チップを開発する。また、結合導波路の両終端に外部光結合用のグレーティングカプラを設ける。チップ基板には、量子光集積回路で標準的なSi3N4導波路(n = 2.00)を主に検討する。結合状況が優れない場合は、屈折率の低いSiO2(n = 1.45)やPMMA(n = 1.49)への変更も検討する。アプローチとしては、SiO2のオーバーコートかインクジェット印刷法による低屈折率ポリマーのコート印刷を検討する。 ③では、まず、開発した埋め込み型結合導波路チップ上へのテーパーエッジマイクロディスクの印刷を国内にて実施する。次に、作製したマイクロディスク・結合導波路実装チップに光を外部から結合させモードカスケードの実験解析を渡航先機関の結合透過光測定セットアップを用いて行う。最後にマイクロディスクレーザーの結合導波路チップへの統合および実証を、顕微分光セットアップを用いて行う(国内および国外)。
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