研究実績の概要 |
軸索起始部(AIS)は、活動電位の発生部位として神経出力の決定に関わり、神経可塑性の起点となるだけでなく、その異常は神経疾患や精神疾患の原因になる。本課題は、AISの可塑性に関わる分子基盤を明らかにするため、特にドーパミン受容体の一種DopEcRに着目し、機能解析することを目的としている。
前年度までに確立した「巨大培養ニューロン」培養法(Wu et al., J Neurosci. 1990)および、その”軸索起始部”様領域に集積するDopEcRおよび電位感受性ナトリウムチャネル(NaV)を受け、パッチクランプ法による巨大培養ニューロンの細胞膜電流の測定を目指し、実験装置のセットアップおよび実験技術習得を進めてきた。その結果、一部の細胞膜上にパッチピペットのギガオームシールをつくることに成功し、刺激依存的なK+電流の計測に成功した。しかしその後、実験装置の不具合と実験結果の信頼性に疑義が生じ、当実験系の継続を断念せざるを得なかった。
代替案として、ハエの飛翔逃避行動に必要な巨大逃避ニューロン(Allen et al., J Comp Neurol, 1998; Dombrovski et al., Nature, 2023)の解析系においてDopEcRの機能解析を継続することにした。当実験系では、ハエ背部の飛翔筋電位計測を行うことで巨大逃避ニューロンの活動を1スパイクのレベルで容易かつ正確に知ることが可能である。また当系では、ハエ複眼への繰り返し電気刺激によって巨大逃避ニューロンに馴化を引き起こすことが可能である。興味深いことにDopEcRの欠損変異体のハエでは、この馴化が生じないことを見出し、軸索起始部が可塑的なスパイク発火のメカニズムに関わる生理学的なエビデンスを得た。
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