研究実績の概要 |
軸索起始部(AIS)は、活動電位の発生部位として神経出力の決定に関わる。神経可塑性の起点となるだけでなく、その可塑性異常は神経疾患や精神疾患の原因にもなることが知られている。本課題はAISの可塑性に関わる分子基盤を明らかにするため、特にAIS周辺部に集積の見られるドーパミン受容体の一種DopEcRに着目し、その機能を解析することを目的とした。
当初、巨大培養ニューロン系(Wu et al., J Neurosci, 1990)の軸索起始部に集積するDopEcRや電位依存性ナトリウムチャネルを見出し、パッチクランプ法による膜電流測定のための実験系の構築、技術習得を進めていたが、共同研究を実施する研究室の実験装置の不具合や系の不備による技術的なトラブルのため、当実験系の継続を断念せざるを得なかった。
代替案として、ハエ飛翔筋電位計測を通じた巨大逃避ニューロン局所回路の解析系を新たに導入した。当該システムでは、複眼への繰り返し電気刺激によって系の馴化を引き起こすことができ、またこの馴化は、DopEcRの欠損変異体では生じず、また巨大逃避ニューロンの入力部ないし入力統合部において生じることがそれぞれ示唆されている。そのため、申請者らが開発した細胞種特異的な分子可視化法を用い、巨大逃避ニューロンにおけるDopEcRの発現解析を行ったところ、軸索起始部領域に発現集積する分子を確認することができた。さらに細胞種特異的なDopEcRのRNAi抑制を実施し、その生理学的な影響を検証したところ、馴化が起こりづらくなることを示唆するデータも得られつつある。今後は、更なるデータの収集を続けるとともに、DopEcRと協調的に働くイオンチャネル種を同定することで、馴化の基軸となる軸索起始部DopEcRによるスパイク発火抑制機構の分子実体を明らかとしていきたい。
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