研究課題/領域番号 |
19KK0389
|
研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
持丸 華子 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 主任研究員 (90462861)
|
研究期間 (年度) |
2020 – 2022
|
キーワード | Atribacteria / メタン生成 / 海洋微生物 / 油ガス田 / 嫌気培養 |
研究実績の概要 |
Atribacteria門細菌は、世界各地の油ガス田やメタンハイドレート、海洋底泥に数多く生息することが知られているが、それぞれで優占する微生物は分離同定されておらずその生態は未知である。これらの環境は微生物によるメタン生成が起きていることが想定される環境であり、メタン生成アーキアに基質を供給する重要な細菌であることが予想される。本研究で、油ガス田だけでなく海洋の細菌の培養を目指すのは、日本の油ガス田の貯留層のほとんどが海で堆積した堆積層であり、貯留層には堆積当時の海水(古海水)が含まれているからである。進化的側面からもこれらの環境で検出される異なる系統のものを分離し生態を比較することは興味深い。この細菌の生態解明のため、それぞれの環境で検出されている系統の分離同定を行うことを目的としている。 本研究においては、海洋の未培養微生物培養の第一人者であるハワイ大学ハワイ海洋生物研究所のMichael S. Rappe教授と共同で研究を行った。これにより、海洋試料の採取および微生物のゲノム解析について強力なサポートを得た。同時に、自身でこれまでに発展させた嫌気培養技術を滞在研究室に導入し、先方のプロジェクトチームだけではこれまでにうまく行っていなかった研究について共同で発展させることができた。新型コロナウイルス蔓延防止のために研究活動が制限される状況下ではあったが、海洋試料を用いて培養を行い、目的の微生物の集積培養に成功した。さらに、そのゲノム解読を目指して遺伝子解析を行った。遺伝子データについては現在解析中である。また、Atribacteria門細菌と同様に油田や海洋において優占しているアーキアについても高割合での集積培養に成功した。この微生物についても遺伝子を抽出して、ゲノム解析を行った。こちらの配列については全ゲノムを読むことができ、機能の解明を試みている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Atribacteria門の系統群名JS1およびOP9それぞれについて海洋およびガス田から計画以上に集積培養ならびに分離同定を行うことができた。Atribacteria門細菌と同じ環境で優占している新規アーキアの系統についても培養することができ、多角的にそれらの生態解明にに近づきつつある。 これまでに原油分解メタン生成培養系で優占している系統群名JS1に含まれる細菌の集積培養に成功し、これまでに知られていない新しい基質利用性を発見した。本研究ではこの発見を活かし、世界各地の油ガス田やメタンハイドレートなどの海洋底泥に数多く生息することが遺伝子解析から示唆されているAtribacteria門(系統群名JS1およびOP9)の細菌を分離培養することで、その生態を解明することを目的としている。研究を発展的に行うために、海洋の未培養微生物培養の第一人者であるハワイ大学ハワイ海洋生物研究所のMichael S. Rappe教授と共同研究を行った。新型コロナウイルス蔓延防止のために研究活動が制限される状況下ではあったが、Rappe教授の研究室において、昨年度嫌気チャンバーの立上げおよび嫌気培養用ガスラインの設置、海洋試料の採取と培養を行い、メタン生成培養系を得た。今年度は得られたメタン生成系の16S rRNA遺伝子塩基配列を解析し、存在する微生物の系統を明らかにした。その結果、用いた基質のいくつかでJS1の集積を確認した。この微生物の集積培養と全ゲノム解析を試みている。さらにAtribacteria門細菌と同様に油ガス田や海洋底泥に広く優占する新規アーキアについて高割合での集積培養に成功し、全ゲノムを解読し、機能について解析を行っている。また、日本のガス田から単離したOP9に属する新規微生物の同定を行った。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は海洋試料の遺伝子解析から存在が示唆されたAtribacteria門細菌の分離培養を試みる。また、集積された培養系から全ゲノム解析を試みる。さらに日本のガス田から単離したOP9に属する新規微生物についてさらに同定や他の系統との比較を進める。集積された新規アーキアについての全ゲノム解析および培養を通して機能推定を行い、Atribacteria門細菌と同じ環境でなぜ優占しているのか、相互の関係性にも着目し、それぞれの生態を解明する。
|