研究課題/領域番号 |
19KK0393
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
佐々木 雄大 横浜国立大学, 大学院環境情報研究院, 教授 (60550077)
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研究期間 (年度) |
2020 – 2022
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キーワード | 生態系機能 / 炭素隔離 / 生態系の多機能性 / 微生物群集 / 植物群集 / 植物形質 / 気候変動 / 生態系サービス |
研究実績の概要 |
低温・過湿環境下で植物遺体がほとんど分解されずに蓄積され続ける湿原生態系は、生物多様性の観点からだけでなく、近年の気候変動影響の緩和にとって重要な生態系機能である炭素蓄積機能を担っているという点でも注目に値する。湿原植物の多様性の将来的な減少は、炭素隔離をはじめとする湿原生態系がもつ多くの機能に影響を与えることが大きく危惧される。 本研究ではまず、日本の湿原生態系における植物および泥炭表層の微生物の多様性の変容が、全球的に重要な炭素動態に関わる複数の機能(植物生産量、分解速度、微生物バイオマス量、微生物呼吸量)にどのような影響を与えるかを明らかにすることとした。 植物の一次生産と炭素貯留に関わる生態系の多機能性が、湿原生態系においてどのように維持されているかを評価するために、青森県八甲田山系の湿原群において、植物と土壌微生物(真菌とバクテリア)の多様性と構成(ベータ多様性を含む)と生態系の多機能性の関係を複数の空間スケールで検証した。 微生物群集組成は主に分解に関連する機能(リターの分解と安定化)を規定しているのに対し、植物種組成と形質組成は考慮したすべての機能と関連していることがわかった。植物および微生物の多様性は、いずれの機能とも有意な関係を示さず、特定の植物・微生物分類群が生態系機能の決定において重要な役割を担っていた。また、多様性よりも植物と微生物の群集組成によって生態系の多機能性が規定されることが明らかになった。さらに、湿原サイトスケールでは、植物・微生物群集組成を介したpHの有意な正の効果、および植物のベータ多様性の生態系の多機能性への直接的な効果が観察された。 山岳湿原の多機能性を維持するためには、多様性よりも植物・微生物群集の構成が不可欠であることを実証した。植物のベータ多様性は、より大きな空間スケールにおける湿原の多機能性の維持に重要であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本課題は国際共同研究であるが、2021年度もCOVID-19の影響により(複数回にわたる緊急事態宣言も発令された)、国際共同研究機関への渡航が開始できなかった。そのため、日本国内で行える調査や既存データの解析を中心に進めている。当初の研究目的の半分程度は遂行できたが、まだもう半分に着手できていない。研究の推進に必要な議論については、メールやリモートでのミーティングを行っている。
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今後の研究の推進方策 |
2022年4月現在、COVID-19の感染拡大状況は依然として大きな改善は認められないが、一方でワクチン接種の浸透や国際的な人の往来に関わる各国の水際対策の緩和が進んでおり、渡航が開始できる見込みがある。本年度は、引き続き、既存データの解析を進め、論文化を進めるとともに、夏期に受け入れ先に国際共同研究機関(ドイツ)へ渡航する。渡航後、共同研究者との研究議論、また論文作成作業を加速させ、これまでの研究遅れを取り戻すように努める。
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