研究課題
植物病原糸状菌はエフェクターと呼ばれる小分子分泌性タンパク質を駆使することで感染を成立させるが、その分泌メカニズムについてはほとんど明らかになっていない。基課題においては、自らが同定したエフェクター分泌阻害剤を分子プローブとして用い、エフェクター分泌の分子メカニズムの解明を目指した。最近になって、これらエフェクターがExtracellular vesicle(EV)を介して 分泌される可能性が示唆された。EVは細胞が分泌する膜小胞であり、シグナル分子を運搬することで細胞間コミュニケーションを担う。基課題で同定したエフェクター分泌阻害剤にはEV分泌を阻害する薬剤が含まれることが予想されたものの、植物病原糸状菌のEV解析技術が確立されておらず解析が困難であった。そこで本研究では植物病原糸状菌のEV可視化・精製技術を開発したRichard O’Connell博士と協力し、エフェクター分泌阻害剤の中からEV分泌阻害剤を探索することに加え、O'Connell博士らが開発したアブラナ科炭疽病菌の形質転換技術・細胞生物学的な解析技術の習得を目標とした。これまでに炭疽病菌の病原性及びモデルエフェクター分泌を阻害するエフェクター分泌阻害剤7種について解析を実施した。フランスINRAEへ渡航しRichard O’Connell博士らが開発したEVマーカーと蛍光タンパク質の融合遺伝子を発現させるアブラナ科炭疽病菌株にエフェクター分泌阻害剤を処理し、いずれのエフェクター分泌阻害剤もEVマーカーの発現・局在に影響を与えなかったことから、EVマーカー遺伝子とエフェクター分泌阻害剤の標的遺伝子は異なるものであることが示唆された。今後は異なるEV分泌の評価手法を用いて解析を実施する。また本共同研究を通じて、アブラナ科炭疽病菌の高効率な形質転換技術を習得し、日本で同様の実験系を立ち上げることに成功した。
2: おおむね順調に進展している
2020年4月~10月に予定していたフランスへの渡航は世界的なCOVID-19の流行のため延期していたが、2021年に渡航し、当初予定していた共同研究を実施した。COVID-19のため現地滞在用のビザの取得が困難であったため、当初予定していた半年の渡航期間は3ヶ月となったものの、これまでの期間で予定していた渡航先での実験を終え、必要な技術の習得もできたため。
共同研究者らが開発したプロトプラスト由来のEV検出手法を用い、エフェクター分泌阻害剤のEV分泌への影響を評価する。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件)
Frontiers in Microbiology
巻: 12 ページ: -
10.3389/fmicb.2021.682155
bioRxiv
巻: - ページ: -
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