研究課題
植物病原糸状菌はエフェクターと呼ばれる小分子分泌性タンパク質を駆使することで感染を成立させる。近年、これらエフェクターがExtrace llular vesicle(EV)を介して 分泌される可能性が示唆された。EVは細胞が分泌する膜小胞であり、シグナル分子 を運搬することで細胞間コミ ュニケーションを担うが、EV分泌に寄与するメカニズムは不明な点が多い。申請者はこれまでに、エフェクター分泌を阻害する複数の化合物を同定している。申請者が基課題においてこれまで同定してきたエフェクター分泌阻害剤 の中に、EV分泌を標的にするものが含まれる可能性あった。そこで、Richard O'Connell博士と 共同研究により、申請者が持つエフェクター分泌阻害剤の中からEVの分泌を阻害するものをス クリーニングすることを本研究の第一の目的とした。さらに、訪問先研究者が持つ植物病原糸状菌の解析技術(感染細胞の電子顕微鏡観察、高効率な形質転換法)の習得及び新規技術の共同開発を第二の目的とした。第一の目的について、申請者が基課題で同定したエフェクター分泌阻害効果を持つ化合物について、EV分泌阻害効果を調べた。その結果、予想と反してエフェクター分泌阻害剤の中にEV阻害効果を持つものは検出できなかった。このことから、申請者の同定したエフェクター分泌阻害剤の作用標的が、O’Connell博士が同定したEVではない可能性が示唆された。第二の目的について大きな進捗が得られた。申請者がこれまでに確立したマーカーリサイクリング法及びCRISPR-Cas9を用いた多重遺伝子破壊法とO’Connell博士らのグループが持つ高効率な形質転換法を組み合わせ、アブラナ科炭疽病菌において高効率多重遺伝子破壊法の確立に成功した。
2: おおむね順調に進展している
当初の予想と反する結果を得たものの、訪問先研究者との共同研究による相乗効果が得られているため。具体的には、アブラナ科炭疽病菌において、高効率な多重遺伝子破壊法という新たな技術の開発に成功し、論文として国際誌に投稿中する進展が得られた。また、現在も共同研究により訪問先研究者の技術を利用することで、申請者が新たに同定した感染に必須な遺伝子の機能について新たなデータを得られているため。
今回の共同研究において、炭疽病菌のEV分泌阻害剤スクリーニングでは、ヒット化合物が得られなかったものの、訪問先研究グループと協力関係を構築し、アブラナ科炭疽病菌の細胞生物学的手法と高効率な形質転換法を取得することができた。これらの手法を利用したアブラナ科炭疽病菌の高効率多重遺伝子破壊法の簡素化・高速化を引き続き推進する。また、これらの技術を活用することで、新たに炭疽病菌の感染に必須な遺伝子(申請者が同定)の機能を明らかにしつつあり、その成果発表・論文投稿を推進する。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 オープンアクセス 2件、 査読あり 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件)
bioRxiv
巻: - ページ: -
10.1101/2023.04.20.537420
eLife
巻: 12 ページ: -
10.7554/eLife.81302