本研究では、我々が同定したGATA阻害剤の造血促進薬としての利用を想定して、GATA転写因子群による血球分化制御機構の解明を目的に解析を行った。 赤血球産生を誘導するエリスロポエチン(EPO)をコードするEpo遺伝子は、プロモーター内のGATAモチーフを介して抑制性に制御されることが示唆されていたが、これまでの解析結果から、同モチーフはむしろ貧血誘導的なEpo遺伝子発現を正に制御するモチーフであり、GATA因子による抑制性の制御は他の領域を介したものであることが示唆された。 その一方で、我々はこれまでにGata1発現低下マウスの解析からGATA1転写因子が成体型赤血球造血に必須であることを示し、また、ヒトGATA2欠損症患者で見つかる変異であるGata2R398Wと同様の変異を導入したマウスの解析から、各血球分化段階におけるGATA1、GATA2の標的遺伝子候補を同定した。 これまでマウスを用いた解析を主に行ってきたが、本年度は、再度、海外共同研究者の研究室へと赴き、ヒトのCD34陽性細胞を用いた赤血球分化誘導系を用い、ヒト赤血球分化過程におけるGATA1機能を解析した。マウスGata1遺伝子発現低下細胞では、赤血球分化過程のMEP段階での分化障害が認められるが、GATA1遺伝子発現低下ヒトCD34陽性細胞を用いた赤血球分化誘導系においても同様の分化段階で分化が障害されることが示され、また、同分化段階でGATA1発現低下によりその発現が増加するEgr1などのGATA1標的遺伝子候補の発現がヒトCD34陽性細胞でも同様に発現増加することが確認された。このことは、GATA1により制御される赤血球分化の制御機序がヒト-マウス間で保存されていることを示している。 これらの知見は、GATA抑制剤をヒトに用いた際の反応を予想するのに有益である。
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